2012年はどこかで日本株の復活も

2011年は東日本大震災、原発事故、タイの洪水と、日本経済はトリプルパンチを受け、また、世界経済は欧州債務問題、中国経済の成長鈍化、アメリカ経済の景気後退という要因で先行き不透明感が強まる環境となりました。

そして、2012年の経済予測は、欧州危機の深まりで欧州各国の国債の格下げがドミノ倒しのように連動し、欧州5大銀行の資金調達が困難になって連動破綻が発生し、世界の金融恐慌が起こり、株式の“底無し相場”が始まって日本株式も続くというような基調のコメントが多くみられます。しかし、欧州債務問題はすでにわかった悪材料であり、政治家が対応できなければ、経済が悪化して株価が下落していくという当たり前のことが起こるだけで、リーマンショックのような暴落が起こる可能性は少ないと思われます。欧州債務問題の根本的解決策がみつかるまでは、途中で何らかの対策が評価されて株価の上昇に繋がるとしても、現在のEUは崩壊に向けて進んでいくものと思われます。この欧州債務問題を根底に置いて、アメリカ経済の回復がどうなるのかということや中国を始めとした新興国の景気悪化懸念、さらに、金正日死亡後の北朝鮮のカントリーリスクが日本経済を取り巻く悪材料となってきます。

日本株式の外国人投資家による売りが続いていますが、これは日本経済に対する懸念からの売りというより、欧州債務問題での損失、および損失に備えての換金売りが続いているためといえます。これが落ち着けば、日本株を売る理由はありません。2012年は、第三次補正予算の効果で△2.2%の成長(先進国の中では一番高い)が想定されており、まだこの第三次補正予算を織り込んでいませんので、どこかで景気浮場効果を織り込む動きが出てくることが考えられます。それがいつになるかというと、欧州問題で各国の下げを一旦織り込むような、大きく世界的な株価の下落があったあとで、日本株に目が向けられるのではないでしょうか。

日本経済を取り巻く悪材料の検討

1 欧州債務問題…EU崩壊へ向かう流れ

欧州債務問題は、元々ユーロを導入する国力の無かったギリシャを参加させたことで、9月半ばにギリシャ国債利回り10年物で利回りが22%に達し、ギリシャ政府がこの金利で借り入れをすると、利払い負担だけでGDPの3割を超える計算となり、デフォルト(債務不履行)が避けられない状況になったことが発火点となりました。そこで、IMFとユーロ圏諸国が設立したEFSFが、ギリシャに対して財政赤字削減を条件に貸し出しを実行しようとしていますが、問題は、ギリシャが懸命に増税と歳出削減をしても、財政赤字が減少しないことにあります。それは、通貨統合でユーロを導入した結果、独自の通貨と中央銀行を持っていないため、通貨切り下げによる景気刺激策が使えないことによります。

過去、通貨危機に見舞われた国(タイ、韓国、アルゼンチン、ロシアなど)はIMFからの資金援助で立ち直っています。IMFは低金利で貸し出しを実行する見返りに、緊縮財政と金融政策の引き締め、為替相場の切り下げなどの政策を実施させます。これを受けた国は、それぞれ独自の通貨と中央銀行を持っているので、通貨を切り下げ、独自の金利政策をとって国内産業の競争力を強めて輸出を増やし、輸入を減らすことになります。さらに、財政支出を削減して金融を引き締めると、企業は輸出を必死に増やします。そうすると、緊縮財政による景気の落ち込みは短期間で終わり、通貨危機後のV字回復が可能となるわけです。

ところが、独自の通貨(ドラクマ)と中央銀行を廃止しているため、通貨切り下げによる景気刺激策が使えず、必死で財政支出を削減し税率を引き上げても、景気が悪化するため大幅なマイナス成長となり、財政赤字削減目標を達成できないことになります。これだと、ユーロ圏の中心国(ドイツ、フランス)は、長期にわたって巨額の資金援助を続けることにならざるを得ません。世界景気が後退すれば、悪循環となってユーロ危機を深刻化させます。

以上を考えると、ユーロ圏が本当に成長するためには、経済統合以外に政治的統合もなされなければならないということになりますが、現時点では不可能でしょう。12月15日に格付会社フィッチが欧州に関わる大手銀行であるバンク・オブ・アメリカ、ゴールドマン・サックス、シティグループ、英バークレイスなどの格付けを引き下げました。その理由は、欧州経済の成長鈍化や欧州当局者の対策が債務危機対策として不十分だということでした。現時点での対応は、緊縮財政の実施か景気対策による経済成長で税収を増やすかですが、各国の思惑があり難しい状況です。当面は、ユーロ圏共同債の発行を巡る方向に向かえば、一旦欧州問題は落ち着きますが、終着点ではないでしょう。最終的にはEUが解体して元の国に戻るか、欧州連合のような立法・行政まで統一できるようなスタイルになるかでしょう。これにどれくらい時間を要するかわかりませんので、何か問題が生じる毎に、欧州債務危機として世界の株式の下落要因となっていくものと思われます。早急にEU経済が悪化すれば、欧州への輸出比率が高い日本企業にとってはマイナスとなります。

2 アメリカ景気の行方…当面の景気後退は脱したが、実体はバブルによる上昇

今年の9月頃までは、アメリカ経済の専門家の間でも景気後退に入ってきているという悲観論が多く、その理由は、住宅価格が下げ止まらず、雇用の回復も鈍く、個人消費に悪影響を与えるというものでした。欧州債務問題が長引くことを考えると、アメリカ経済にも大きなマイナスとなるところですが、年後半の経済指標に予想を上回るものが多く出てきました。アメリカの自動車産業が好調となり、欧州信用不安があるにも拘らず「銀行貸出」が大幅に伸びています。このことは、企業の設備投資が活性化していて経済成長にプラス要因を与えることになります。さらに、心配されていた個人消費を占う年末商戦が予想を大きく超える売上げとなりました。12月になっても経済指標の発表は予想を上回るものが多く、12月22日(木)は新規失業保険申請件数が2008年4月以来の低水準となって労働市場の改善も期待される動きとなり、23日(金)は△124の12294ドルとなって直近高値を抜き、今年の最高値に挑戦できる状況となっています。

しかし、現在の株価はQE3(量的緩和第3弾)への期待から支えられたバブルとなっているとみていた方がよいでしょう。欧州債務問題から世界同時株安が起こってアメリカ経済に影響を与えるような動きとなれば、QE3を実施することをFRBが発表していますので、買い安心感があるということでしょう。これまで織り込んでしまえば、どこかでアメリカ株式は暴落することになります。その時、日本株式もショック安となりますが、そのあとは上昇に転じる可能性が高いといえます。

3 中国経済…当面停滞へ。将来はアジア経済の中心

中国経済は、急成長の結果、インフレが加速したことで金融引き締めを行ってきましたが、欧米の需要低迷が長引いて、貿易頼みの成長は見込めない可能性があることから11月になって金融緩和策に転換してきました。中国政府は「今後輸出頼みの経済成長は期待できないため、内需中心の経済成長へ舵を切る」とし、当面のGDPをこれまでの2桁成長から7%成長へと下方修正しました。中国の雇用を維持するためには7~8%の成長率が必要とされていますので、中国経済は一旦成長から停滞へ移行することになります。ブルームバーグが、投資家やアナリスト対象に9月26日に実施した「ブルームバーグ・グローバル・ポール」によると、2016年までに5%未満になるという回答が60%近くあがっており、急成長後の調整が4~5年続くことになるかもしれません。

中長期での日本株はどうなる

20年間に渡って下落し、現在大底圏にあると考えられる日本株式は、長期投資という視点からは買いだと思われます。11月25日、著名投資家のジム・ロジャーズ氏(中国株を早い時期から保有していたことで有名)は、「日本株はとても割安で株式を保有している数少ない国の1つであり、日本はアジアの成長の恩恵を受ける」と述べました。中国・インドの新興国が急上昇したことで、その調整にしばらく時間がかかりますが、過去の日本の成長からみると、まだ5合目くらいのもので、この長い調整が終わるとアジアの中心となって上昇し、ここに技術を提供している日本も大きく成長することになるでしょう。その時、欧米株式は、大きな暴落をしたあとで(当然日本も連動する)戻り売り相場となり、長期の調整入り(10年単位)となり、日本はアジアと共に成長過程に入っていくものと考えられます。それがいつなのかは、欧州債務問題の終着点、アメリカ株式のバブル崩壊後の動きになりますのでわかりません。先のことがわからない以上予測しても無駄ですが、過去の歴史的体験からいえば、5~10年の長期投資で割り切るならば大底圏(日経平均の7,000~8,000円水準)は大きな買い場といえます。

来年の日本の成長率は△2.2%と予測されており、先進国の中で一番の上昇率となっています。そうなると、欧米と比較して消去法で日本株が買われてくる可能性があります。というのは、世界には生保や年金資金に代表されるように目標利益を上げ続けるために投資を続けなければならない投資資金があります。そのような投資資金は国別の投資割合があり、儲けが上げられるような国を選別して投資します。日本は規制もあって儲からない国と見られているため、日本の株式市場から外国人の資金は流失し続けました。そして、今年になって欧州債務問題をきっかけに欧州の投資家があまり儲からない日本株を売っています。しかし、来年以降、欧米の成長を日本の成長が上回るようになると、日本への資金のシフトが起こってくる可能性があります。バブルが崩壊した1989年12月のピークから2010年までは、世界の株式の中で日本株だけが下落し続けました。今後、どこかで欧米が下落を続け、日本株が上昇し続けるというシナリオが出てくるかもしれません。というのは、巨額の投資資金を受け入れる規模を持っている国は、日本以外に無いからです。政治がそれをわかって規制緩和をどんどん行っていくことができれば現実のものとなってくるのですが、規制を作っていく官僚主導の政治では難しいところともいえます。

2012年の日本株はどうなる

2012年は、良かれ悪かれ大きく動く可能性があります。相場が大きく上下すれば、チャンスの到来が考えられます。今年のように狭い値動きでは、日経225などの指数を売買する投資しかチャンスはなく、個別株は値動きが少ないためにほとんど面白味がなくなってしまいます。個人投資家が株式市場から去っているのは、株価の動きにも関係しています。

日本経済は、第3次景気対策の効果が出てくる上に、第4次景気対策の発表があります。中国は、急成長が一服しますが、失速しないように利下げを行ってくる可能性が高いといえます。当面は、アメリカ経済がリセッションに陥らなかったことで金利が上昇し、円安基調(中長期的には円高の可能性が高い)が続くことになります。

逆にマイナス面では、欧州問題への不透明感から各国の国債の格下げが起こり、国債の金利が上昇して信用不安から銀行破綻の可能性があり、北朝鮮問題というカントリーリスクが新たに生まれました。さらに、2012年は、世界中で大統領選挙の年です。選挙の年に出てくる材料は基本的に好材料ですので、アメリカではオバマ大統領が再選を目指すために経済を回復させようと努力します(ただし、共和党と民主党の争いが深いので悪材料化する場面も)。

理想的には、早い時期に欧州問題の悪材料を一気に織り込む形で世界同時株安になれば、日本株も8,000円水準(もしくは7,000円水準)まで下げて反発すれば、本格的な戻りに入ることもできます。そうでなければ、8,300~9,000円のボックス相場が当面続くことになります。しかし、どこかで欧米株式が大きく下げ、日本株も連動して下げてそこから日本株が大きく買われてくる可能性はあります。