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著者の今中 能夫が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
決算レポート:東京エレクトロン(AI半導体、HBM中心に業績好調)
決算レポート:レーザーテック(今1Q受注高は大幅減か、株価には割安感)

毎週月曜日午後掲載

本レポートに掲載した銘柄東京エレクトロン(8035、東証プライム)レーザーテック(6920、東証プライム)スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI、NASDAQ)

東京エレクトロン

1.東京エレクトロンの2025年3月期2Qは、32.4%増収、54.1%営業増益

 東京エレクトロンの2025年3月期2Q(2024年7-9月期、以下今2Q)は、売上高5,665.55億円(前年比32.4%増)、営業利益1,481.71億円(同54.1%増)となりました。前年比では大幅増収増益、今1Q比では増収減益となりました。今1Q比で営業減益となった理由は、今1Qに採算の良い製造装置売上高が計上されたこと、今2Qに一時的な在庫廃棄を行ったこと、研究開発費が増加したことによります。

 アプリケーション別に見ると、今1Q比ではDRAM向け、ロジック・ファウンドリ・その他向けが減収となりましたが、不揮発性メモリ(主にNAND型フラッシュメモリ)向けが低水準ながら大幅増となりました。前年比では各分野とも増収となり、特にロジック・ファウンドリ・その他向けが大幅増収となりました。AI半導体向けと最先端ロジック向けが好調でした。AI半導体向けでは前工程だけでなく、アドバンスド・パッケージング向け(HBMのパッケージング、AI用GPUとHBMのパッケージング)も活発でした。DRAM向けではHBM向けが伸びました。

 また、フィールド・ソリューションが今1Q1,181億円、今2Q1,395億円と好調でした。製造装置の改造案件とパーツ、サービス売上高が伸びました。

 地域別売上高は、中国向けが今1Q2,770億円から今2Q2,339億円へ、台湾向けが同800億円→753億円へ減少しました。中国向けは今1Qがピークになったと思われ、今後は減少する見込みです。一方で、韓国向けが同678億円→765億円、北米向けが同590億円→799億円、日本向けが同385億円→526億円へ増加しました。その結果、中国向けの減少を吸収して今2Qの全売上高は今1Q比増収となりました。

表1 東京エレクトロンの業績

株価 22,300円(2024/11/15)
発行済み株数 460,913千株
時価総額 10,278,360百万円(2024/11/15)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:発行済み株数は自己株式を除いたもの。

グラフ1 東京エレクトロンの売上高と営業利益

単位:100万円、四半期ベース、出所:会社資料より楽天証券作成

表2 半導体製造装置のアプリケーション別売上構成比と売上高(新規装置のみ)

単位:%、億円
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:売上高は会社公表の売上構成比から楽天証券計算。
注2:2021年4-6月期からは新収益認識基準。

表3 東京エレクトロン:半導体製造装置の地域別売上高

単位:億円
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:端数処理の関係で合計が合わない場合がある。
注2:2021年4-6月期からは新収益認識基準。
注3:2023年4-6月期よりFPD売上高を含む。

2.会社側は先端半導体の設備投資に対して強気の見方を示す

1)AI半導体とHBMを主軸として、2024年暦年、2025年暦年の半導体設備投資は強いと会社側は見ている

 会社側は今1Q、2Qの実績を見て、2025年3月期通期の業績予想を、前回予想の売上高2兆3,000億円(前年比25.6%増)、営業利益6,270億円(同37.4%増)から、売上高2兆4,000億円(同31.1%増)、営業利益6,800億円(同49.0%増)へ上方修正しました。

 会社側の2024暦年の半導体設備投資の見方では、AI半導体と最先端半導体への投資、2ナノ、3ナノ、4ナノへの投資が活発です。AI半導体向け設備投資では前述のアドバンスド・パッケージングへの投資も活発です。メモリではAI半導体に不可欠のHBM投資が活発です。

 足元では一部の先端ロジック向け投資が控えられています。2024年9月発売の「iPhone16」シリーズの販売動向が振るわないため、3ナノ投資の一部が手控えられていると思われます。ただし、これはHBM向けを含むAI半導体向け投資の増加で補えると思われます。

 また、2025年暦年は、AI半導体向け設備投資の増加に、AIパソコン、AIスマートフォン向け先端半導体への投資増加が加わると予想されます。2025年末から量産開始が計画されている2ナノへの投資は今のところ順調に進んでいる模様です。

 新技術としては、GAA(ゲート・オール・アラウンド。従来のFinFET構造に代わる新しいトランジスタの構造)、バックサイドPDN(パワー・デリバリー・ネットワーク。ウェハの裏面に電力回路を構築し、効率的に半導体回路を動かせるようにする)、高積層メモリ(HBMや最新型のNANDのような高積層メモリ)があります。これらの新技術はいずれも半導体製造装置需要にプラスに働くと思われます。

 また、AI半導体向けでは東京エレクトロンが市場シェアの多くを持っているボンディング装置において、HBM向けボンディング装置で新規顧客のPOR(Process of Record、顧客の半導体製造プロセスにおける装置採用の認定)を獲得しました。また、最先端ロジックにおけるバックサイドPDNとアドバンスド・パッケージにおけるSoC向けフュージョン・ボンディング(2つの半導体ウェハを原子レベルで直接結合させることによってウェハ同士の強固な接合を実現する技術)のPORを獲得しました。

 地域別に見ると、中国向けは今後減少すると予想されますが、台湾、韓国、北米、日本向けなどで補って、2025年3月期、2026年3月期とも増収増益が続くと予想されます。

2)楽天証券の2025年3月期、2026年3月期業績予想を上方修正する。ただし、リスクもある

 会社側の2024年、2025年の半導体設備投資の見方を参考に、楽天証券業績予想を上方修正します。2025年3月期予想は、前回の楽天証券予想は前回会社予想と同じとしましたが、今回の楽天証券予想も会社予想と同じとしました。2026年3月期楽天証券予想は、前回の売上高2兆7,000億円(前年比17.4%増)、営業利益7,700億円(同22.8%増)を、売上高2兆8,000億円(同16.7%増)、営業利益8,400億円(同23.5%増)へ上方修正します。

 ただし、リスクもあります。一つは中国向けの減少スピードです。2025年1月にスタートする第2次トランプ政権の対中国半導体規制と対中国半導体製造装置輸出規制の中身はまだわかりません。アメリカの対中国半導体製造装置輸出規制が今以上に強化された場合、東京エレクトロンが想定している以上の速さで中国向け売上高が減少するリスクがあります。会社側が予想する2025年暦年のWFE(ウェハプロセス装置)市場における中国比率は約30%ですが、このリスクを織り込んで、楽天証券の2026年3月期中国向け売上高を全体の25%の7,000億円と予想しました。

 ただしその一方で、トランプ政権がバイデン政権以上の熱心さで、アメリカに先端半導体の工場を海外から誘致する可能性があること、特にこれまで台湾にのみ建設してきたTSMCの最先端ロジック工場を、アメリカにも誘致しようとする可能性があること、AIや暗号資産の規制緩和や、エネルギーの規制緩和によってデータセンターの増設、新設がこれまでよりも容易になると思われることなど、トランプ政権で予想される政策によって、半導体需要の大きな増加が期待できます。

 二つ目は、2ナノ投資です。iPhoneの売れ行きが足元のように前年比一桁増に止まるならば、2024年後半から始まって、2025年に本格化する2ナノ投資が慎重なものになる可能性があります(従ってすでに2ナノ投資は始まっています)。ただし、2ナノにはアップル以外にも早期供給を望むユーザーが出ている模様なので、2ナノ投資についても、当面は順調に進むと思われます。

表4 半導体製造装置のアプリケーション別売上構成比と売上高(新規装置のみ)(年度ベース)

単位:%、億円
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:売上高は会社公表の売上構成比から楽天証券計算。
注2:2021年4-6月期からは新収益認識基準。
注3:端数処理のため合計が合わない場合がある。

表5 半導体製造装置のアプリケーション別売上構成比と売上高(新規装置のみ)(半期ベース会社予想)

単位:%、億円
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:売上高は会社公表の売上構成比から楽天証券計算。
注2:2021年4-6月期からは新収益認識基準。
注3:端数処理のため合計が合わない場合がある。

表6 東京エレクトロンの中国向け売上高

単位:億円
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:端数処理の関係で合計が合わない場合がある。
注2:2023年3月期までは半導体製造装置売上高、2024年3月期からはFPD売上高を含む全売上高。

3.東京エレクトロンの今後6~12カ月間の目標株価は、前回の3万3,000円を維持する

 東京エレクトロンの今後6~12カ月間の目標株価は、前回の3万3,000円を維持します。

 長い目で見て、2026年3月期の楽天証券予想EPS(1株当たり利益)1,405.0円に、2026年3月期の楽天証券予想営業増益率23.5%より、PEG=1.0倍前後と想定し、想定PER(株価収益率)を20~25倍として当てはめました。

 業績は好調ですが、トランプ政権の半導体政策がまだ明らかでないことによる不透明感、アメリカと日本の金利上昇など、株価にとってネガティブな要素もあります。株価上昇には時間がかかるかもしれませんが、引き続き中長期で投資妙味を感じます。