民主的=豊か、権威的=貧困とは限らない

 次に、国民の豊かさと思想・考え方の関係について確認します。以下は、一人当たりのGDPです。同指標は、国の平均的な豊かさを示すとされています。米国ではリーマン・ショック発生の翌年である2009年と新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年を除けば、1990年以降、上昇し続けています。

 米国は富の配分が偏っていることやそれによる格差拡大など、たくさんの問題を抱えているものの、国全体としては豊かになる傾向が続いているといえます。ドイツも同じような傾向にあります。

 一方、日本は2012年をピークに低下傾向にあります。甚大な災害がいくつも発生したり、デフレ体質が顕在化したり、各種政策が後手に回ったりするなど、失われた数十年を過ごしています。

 新興国の大国と位置付けられ、人口の多さが経済発展に寄与すると期待されてきたインドは、大変に低い水準を推移しています。人口の多さやそこに向けられる期待が、必ずしも国を(平均的に)豊かにするわけではないことが、うかがえます。

図:一人当たり名目GDP 単位:ドル

出所:IMF(国際通貨基金)のデータより筆者作成

 権威的な国と言われることがある中国は、大規模ではないものの、少しずつ上昇してきています。王制を敷くサウジアラビアは2000年代に入り上昇が目立ち始め、2022年に日本と同水準になりました。権威的な国は豊かにならない(なれない)、というイメージは実態に即していないことがうかがえます。

 その中国とサウジアラビアがどの程度、権威的かを示す資料があります。V-Dem研究所(スウェーデン)が公表している、世界各国の民主主義に関わる複数の情報を数値化した自由民主主義指数を参照します。

 この指数は0と1の間で決定し、1に接近すればするほど自由で民主的な度合いが高いことを、0に接近すればするほど、その国が自由で民主的な度合いが低いこと(権威的な度合いが高いこと)を意味します。

 行政の抑制と均衡、市民の自由の尊重、法の支配、立法府と司法の独立性など、自由や民主主義をはかる複数の側面から計算されています。以下のグラフは、本レポートで取り上げている五つの国の同指数の推移です。

図:自由民主主義指数 単位:ポイント

出所:V-Dem研究所のデータより筆者作成

 先進国である米国、ドイツ、日本は高い水準にあります。米国は2016年にトランプ氏が米大統領選挙で勝利したことを受けて、最高水準からやや低下しています。ドイツ、日本は、2010年ごろから続く世界分裂・民主主義の後退の流れに身を任せるように、緩やかに低下しています。

 新興国のインドも2010年ごろから世界全体の流れに倣って低下が始まり、汚職などの固有の社会不安がまん延しはじめたことがきっかけで、低下に拍車がかかりました。

 こうした先進国や一部の新興国で変化が生じているさなか、権威的と言われることがある中国とサウジアラビアは、ほぼ一貫して、低水準にあります。言い換えれば、両国は先進国のような民主的な状況になったことがないのです。ですが、豊かさを獲得しているのです。