疑惑の雇用統計も0.5%の利下げも全てが政治的な動き

 先週末に発表された9月の米雇用統計はNFP(非農業部門雇用者数)が+25.4万人、予想を上回る失業率低下と賃金上昇となった。NFPの市場予想のコンセンサスは+15万人だった。この数字を本当に信じる人がいるだろうか? 例によって、大統領選を前に雇用統計はまた操作されたようだ。

9月の民間雇用者数と政府雇用者数の比較

出所:ゼロヘッジ

「政府職員がなんと78万5,000人も増加した。なぜ9月の雇用統計で政府職員が過去最多となったのか? 政府の仕事を誰が負担しているのかと疑問に思う人は、過去最高に急騰したばかりの米国政府債務を見れば、全ての疑問が解決するはずだ。BLS(米国労働省労働統計局)は民主党への忖度(そんたく)でできる限りのことをしたかもしれないが、データは必然的に選挙後に下方修正される。生活費を稼ぐために複数の仕事を必要とする人々の数は過去最高となった」

出所:「今日の驚異的な雇用報告の背景:政府職員の記録的な増加」(10月5日 ゼロヘッジ)

米国の政府債務は35兆6,830億ドルという記録的な高水準に達した

出所:RealEJAntoni

 繰り返し述べているように、米大統領選挙まではバブルの崩壊は起きにくい。米金融当局は現在、毎月2,000億ドルの債務注入を行っており、印刷された膨大なマネーが市場に溢れかえっているからだ。

 負債と資産を両方膨らませる「両建て経済政策」で、昨日S&P500種指数は史上最高値を更新し、年初来で21.6%上昇となっている。2023年10月以降、S&P500の時価総額は13兆ドル以上増加した。

 米国は存在するお金の40%を18カ月間で印刷し(2020年から2021年のように)、無差別に雨のように降らせた。低所得者は必要性があるためにそれをすぐに使い、高所得者層は通常、問題がないためそれを貯蓄または投資する。

S&P500CFD(日足)

(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

 The Kobeissi Letterは現在の「市場心理」を以下のように説明している。

  1. 雇用統計が予想を上回る: 株を買ってください。景気後退は回避できます。
  2. 雇用統計が予想を下回る: 株を買ってください。FRB(米連邦準備制度理事会)は金利を引き下げる予定です。
  3. 雇用統計は予想通り: 株を買ってください。FRBは「ソフトランディング」に向けて順調に進んでいます。

 もうファンダメンタルも業績も関係ない。市場そのものを動かすのは、「政策当局が注入する過剰流動性のレベル」と「政策期待を巡る感情」である。われわれは今、相場ではなく米民主党の大統領選挙対策を見せられているのかもしれない。

 米金融当局の大幅利下げ観測は驚愕(きょうがく)の米雇用統計によって修正を余儀なくされている。一方で、石破茂首相の「利上げできる環境にない」という発言が、「日本は追加利上げを断念した」と海外では受け取られており、円キャリートレードが復活している。

ドル/円(日足)

(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

ユーロ/円(日足)

(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

ポンド/円(日足)

(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

 米大統領選挙までは基本的に国家管理相場が延命する。全ては米大統領選挙後だ。

 いま世界中で起きている終末的状況は、「負債と資産の両建て」でつくられたエブリシング・バブルに覆い隠され金融市場ではほとんど認識されていない。

 米国が覇権を維持して生き残る唯一の方法は、何兆ドルもの紙幣を印刷することだった。市場をポンジスキームに変え、持続不可能で急速に増大する国家債務を管理していた。だが、そんな時代は終わりに近づいている。

 巨大な債務の壁が満期を迎える。35兆ドルの16兆ドルは6年で償還されてしまう。乗り換える時の金利が低ければ米国債なんて誰も買わない。

 ドルが武器化されている今、中国もロシアも誰も買わない米国債を買うのは日本だけ。買い手が足りないので、結局、米国はQE(量的緩和)をやる(自分で買うしかない)ことになる。

巨大な債務の壁(米国債の満期償還)

出所:Lawrence McDonald

 元FRB議長のアラン・グリーンスパンは、何年も前に「米国の負債処理のプラン」を明かしている。

「米国は債務不履行に陥るつもりはない。金利を引き上げ、ドル不足を生じさせることで、他の全ての国に債務不履行を強いるつもりだ。誰もが米国債を売却せざるを得なくなったら、額面価格より安く購入するだろう」

 長期の米国債はもはや安全資産ではないと、そのうち市場も気づくだろう。それについては、折を見て言及したい。