「暴騰中・歴史的高値」は興奮と恐怖の源泉

 なぜあの時、多くの投資家は恐怖を感じたのでしょうか。下落値幅が大きかったからでしょうか。筆者はそれだけではないと考えています。そもそも、歴史的高値水準であることも、恐怖をかきたてた原因だったと考えます。

図:主要株価指数と金(ゴールド)の価格推移(月足)(2009年2月を100として指数化)

出所:LBMAおよびInvesting.comのデータをもとに筆者作成

「みんなが買っている」「米国株は大丈夫」などの集団心理が一因で事態が見えにくくなっていますが、そもそも、こうした人気銘柄たちは、上のグラフが示すとおり、歴史的な高水準にあります。大変な「高所」で推移しているのです。

 高所はある意味、興奮と恐怖の源泉です。多くの人間があえてジェットコースターや観覧車に乗りたがるのは、高所がもたらす興奮とその裏側にあり深い興奮(悦楽に似ている)を増幅させる恐怖を感じるためです。それらに加え、ジェットコースターは疾走感が、観覧車は未知の眺望や優越感が得られます。

 人は本能的に興奮をそして深い興奮を増幅させる恐怖を求める生き物です。人気アトラクションの行列が途絶えないのはこのためです。高所に到達できる人気アトラクションに足を運ぶことと、高所にある人気銘柄を買うことは、共通していると筆者は考えています。

「この遊園地はしっかりしているからこのアトラクションに乗っても大丈夫」「AIブームが来ているから米国株は大丈夫」などの集団心理を強力に補強する要因があれば、興奮を獲得したいという欲求は高値への警戒心をかき消し、人はジェットコースターや観覧車に乗ったり、歴史的高値圏で推移する人気の株価指数を買ったりします。

 それでいて、ジェットコースターや観覧車が何らかのトラブルで緊急停止したり、人気の株価指数で何らかの要因で急落したりして、不意のリスクにさらされると、とたんに恐怖が膨張します。

「この高さ、怖い」「この観覧車から降りられないのではないか?」そして「株価急落はなぜ起きているのだろう?」「この下げは止まらないのではないか?」などと強い恐怖に駆られてしまいます。