今週は、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)による政策金利引き下げが確実視される中、日米金利差縮小による円高進行が日本株市場にとって打撃になりそうです。

 ただ、利下げはお金の巡りを良くする政策のため、本来、株式市場にとってポジティブ。米国利下げの良い面、悪い面を日本株市場がどのように消化するかに注目です。

 日本時間の29日(木)早朝には、AI(人工知能)バブルの主役株である米国高速半導体メーカーのエヌビディア(NVDA)が2024年5-7月期の決算を発表。

 市場ではAIに対する熱狂がすでに冷めつつあるという見方とまだまだこれからという見方があり、エヌビディアの決算が日本の半導体株、ひいてはハイテク株主体の日本株全体にも大きな影響を及ぼしそうです。

「利下げの時は来た」。

 先週23日(金)、各国の中央銀行総裁らが参加し、毎年行われるジャクソンホール会議でパウエルFRB議長はこう発言。

 これを受けて米国株は続伸し、機関投資家が運用指針にするS&P500種指数は週間で1.45%高でした。

 しかし、来たる9月18日(水)終了のFOMC(米連邦公開市場委員会)で0.5%の大幅利下げが行われる可能性もあるため、23日夜のニューヨーク外国為替市場では1ドル=144円30銭台まで急速な円安が進行。

 週明け26日(月)の日経平均株価(225種)終値は円高を嫌気して自動車や半導体など外需株や百貨店などインバウンド(訪日外国人客)関連株が売られ、前週末比254円安の3万8,110円まで下落しました。下落は3営業日ぶりです。

 先週の日経平均は前週末比301円(0.8%)高の3万8,364円で終了。1ドル=148円台の高値から23日(金)の東京市場終盤で1ドル=145円80銭台まで円高ドル安に振れたものの、プラスを維持したのは驚きです。

 下げが目立ったのは、米国や日本の金利低下が収益減につながる銀行業や保険業。

 中東情勢の緊張緩和で原油安が進んだため鉱業や大手商社の属する卸売業など資源関連株、円高が海外収益の目減りにつながる自動車株も下げました。

 一方、円高や原油安が収益改善につながる小売業、空運業、陸運業、携帯キャリアなど情報・通信業、医薬品といった下げ相場に強いディフェンシブ株が上昇しました。

 内需株の上昇をけん引したのは、コンビニ最大手のセブン&アイ・ホールディングス(3382)が19日(月)にカナダの同業大手アリマンタシォン・クシュタールから買収提案を受けたことが発覚。

 セブン&アイ株は19日にはストップ高まで買われ、週間では前週末比16.1%も急騰しました。

 今週は日本株がより一層の円高進行に耐えられるかどうかがポイントになりそうです。

 9月27日に投開票がある自民党総裁選挙は候補者が乱立気味で、今週はまだ株価に大きな影響はなさそうです。

先週:外需株から内需株へ物色変化!パウエルFRB議長の「利下げの時は来た」発言で円高!

 先週、最も注目されたイベントはジャクソンホール会議でのパウエルFRB議長の講演でした。

 パウエル議長は23日(金)、「労働市場の一段の冷え込みは歓迎しない」と述べ、強い労働市場を維持するため、9月18日(水)終了のFOMCでの利下げを「確約」するような「(金融政策を調整する)時は来た」発言を行いました。

 2024年中の利下げ回数や利下げ幅について具体的な明言はなかったものの、市場はパウエル議長が利下げに寛容なハト派に転換したことを歓迎。

 23日のS&P500種指数は史上最高値到達まであと0.5%近くまで上昇しました。

 同じ23日昼には、衆議院財務金融委員会などの閉会中審査に出席するためジャクソンホール会議を欠席した植田和男日本銀行総裁が国会で答弁。

 植田総裁は金融市場が「引き続き不安定な状況にあると認識している」と発言し、今後も経済や物価の状況次第で利上げをしていく方針に変更はないものの、市場動向に配慮する姿勢を表明しました。

 実質的には当面、追加利上げの可能性が遠のいたこともあり、23日の日本株は上昇しました。

 19日(月)に判明したセブン&アイHDのカナダの同業他社クシュタールによる買収提案は、外資による日本企業買収を規制する外為法による日本政府の承認が必要になります。

 またクシュタールは米国でコンビニ事業首位のセブン&アイに次ぐ2位。買収には米国の連邦取引委員会の審査も必要になるため、そのハードルはかなり高そうです。

 しかし、日本の小売業大手が外資に買収提案されるほど「魅力的な存在」であることは、日本の内需株全体にとって朗報といえるでしょう。

 先週の為替相場では1ドル=148円台の高値から144円30銭の終値まで、4円近く円高が進行。

 トヨタ自動車(7203)が前週末比2.3%安、半導体関連の主力株・東京エレクトロン(8035)が6.4%安になるなど外需株は低調でした。

 円高になるとインバウンド消費の日本国内での購買力が落ちるという見通しから、三越伊勢丹ホールディングス(3099)が8.1%安。

 世界的な金利低下が収益悪化につながる三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)が1.8%安となるなど、銀行株や保険株もさえませんでした。

 その一方で、円高が収益の追い風になる家具大手のニトリホールディングス(9843)が10.7%高。

 ディフェンシブ株の製薬会社・住友ファーマ(4506)が証券会社の目標株価引き上げもあって21.8%高。

 ソフトウエアのテスト受託事業を行う、株価が割高な成長株・SHIFT(3697)が16.2%高。

 成長性の高い中小型の内需株が多い東証グロース市場250指数が先々週の8.4%高に続き先週も5.2%高。

 円高が緩やかで米国の景気後退懸念が深刻化しない場合、今後は大型株から中小型株の内需系成長株に資金シフトが進む可能性もありそうです。

 また22日(木)、米国民主党の党大会でカマラ・ハリス現副大統領が次期大統領指名を正式に受諾。ハリス氏が掲げる新規住宅300万戸の建設政策を材料視して、米国での住宅販売が好調な住友林業(1911)が8.9%高。同社はハリス氏が大統領に就任した場合の有力株になりそうです。

今週:円高進行で日本株は軟調な展開?エヌビディア決算がAIバブルの命運を握る!

 今週はなんといっても28日(水)夜(日本時間では29日(木)早朝)に発表される米国高速半導体メーカー・エヌビディア(NVDA)の決算が注目です。

 同社はAI向け半導体需要の高まりで、2023年の半ばごろから市場予想を大きく上回る空前の好決算を連発し、株価が急騰してきました。

 ただ、今後の売上高は、前年同期比3倍超に達したこれまでの伸びからは鈍化する見通しで、市場が予想する2024年8-10月期の売上高の伸びは前年同期比74%増まで低下しています。

 マイクロソフト(MSFT)など米国の巨大IT企業のAI関連の新サービスがいまだ収益増加に貢献していないこともあり、最近はAIバブルに懐疑的な見方も広がっています。

 ただ、巨大IT企業のAI向け設備投資は非常に高水準。エヌビディアがAIハードウエア販売の増加でまだまだ高成長を持続する可能性は高そうです。エヌビディアの2025年8-10月期の売上見通しが市場予想を上回った場合、先週下落した日本の半導体株にとっても朗報でしょう。

 一方、中国向け半導体輸出の規制などで売り上げ見通しが予想に達しない場合、8月上旬のような世界的な株価急落の引き金を引く恐れもあります。

 今週、米国では27日(火)に民間調査会社コンファレンス・ボードが発表する8月消費者信頼感指数、29日(木)に2024年4-6月期の実質GDP(国内総生産)の改定値も発表されます。同GDPの速報値は前期比年率換算2.8%増と堅調でした。

 30日(金)には7月の個人消費支出の価格指数(PCEデフレーター)も発表。市場予想では前年同月比2.6%増と、前月6月より多少上昇するものの、物価高の沈静化が続く見通しです。

 エヌビディアの決算発表に市況が大きく左右されそうな1週間ですが、差し当たっては日米金利差縮小による円高がどこまで進むかが焦点になりそうです。

 為替相場はトレンドが出やすく、いったん円高に振れるとなかなか止まらない傾向が強いといわれています。そう考えると、円高進行や世界的な金利低下で外需株や銀行株、インバウンド関連株が不調、内需株や割高成長株が堅調という先週の流れが今週も続く可能性が高いかもしれません。

 8月上旬に3万1,000円台まで急落したあと、急ピッチで反転上昇してきた日経平均は3万8,000円の大台前後で足踏みしています。

 日本株は円高が最大の弱点です。「円高トレンドが進行しても、そのペースが緩やかなら株価があまり下がらない」という安心感が生まれ、日経平均が3万8,000円の大台を維持できるかどうかに注目です。