相場変動に動揺せず「長期積み立て投資」を続ける意義を検証

 前述した通り、7月16日まで最高値を更新してきたS&P500が、複数の不確実性と需給悪化要因で反動安(調整局面)入りした可能性は否定できません。そうした中、(繰り返しますが)「TIME in the market is more important than TIMING the market」(相場の上下にあわせて売買するよりも、長く投資を続けていく方が有利)との常識を再認識したいと思います。

 システム売買やアルゴリズム(AI)取引が市場で存在感を増す中、一般投資家の方々が相場変動や見通し変化に応じた売買を繰り返しながら成果を出し続けるのは「言うは易く行うは難し」の典型例です。投資理論や市場実績に倣えば、長い時間をかけて積み立て分散投資(定時定額投資)を続けていくことが「資産形成」の王道です。

 実際、短期的な市場の変動で利ザヤを稼ごうとせず、10年、20年、30年という「時間」を味方に付けて「投資資金に働いてもらう」、「長期の時間軸で誰でも資産を形成できる」との考えは米国における投資教育のプリンシパル(原理)です。

 図表3は、約30年前の1995年1月に5万円を米国株式(S&P500総収益指数/円ベース/為替ヘッジなし)に分散投資。その後も毎月末に5万円ずつ継続的に投資してきたケースをシミュレーションしたものです(6月末時点)。

 1995年1月から354回の定時定額投資を実践してきた結果、累計投資額は簿価ベースで1,770万円(=5万円×354回)でした。この間の「ドルコスト平均法」と「複利運用」(雪だるま)効果で、投資元本の時価資産は6月末時点で約1億5,298万円に膨らんできました。これは、時価資産が累計投資額の約8.64倍に成長してきた積み立て投資による成果を示しています。

<図表3>米国株の長期積み立て投資で時価資産は増加してきた

(出所)Bloombergより楽天証券経済研究所作成(1995年1月~2024年6月)

 30年の間には幾度もの株価下落や為替変動を交えてきました。実際、前週から今週にかけてみられたように株価や為替が大なり小なりの変動に直面するケースは珍しくありません。

 ただ、1995年1月以降の長期で振り返ると、S&P500の円ベース総収益(配当込みトータルリターン指数)の年率平均(前年同月比騰落率の算術平均)は+14.2%と国内の預貯金の利回りや日本株のパフォーマンスを大きく上回り、時価資産を増やすことができた市場実績を検証するものです。「時間を味方にしてきた定時定額投資」の成果を示しています。

 今後も金利変動、景気変動、地政学的リスク、大統領選挙を巡る不透明要因などが顕在化すると、今後も株価も為替も需給変動に応じて揺れる場面があるでしょう。時価資産が変動する場面でも「Stay Invested」(市場が変動しても長期投資をやめない)という姿勢が大切です。

 むしろ、市場(株式相場やドル円相場)が下落する局面では「同じ定額投資で多くを安く買える」とのメリット(ドルコスト平均法効果=時間分散効果)を意識したいと思います。

 価格変動やリスク(リターンのブレ)を乗り越えながら米国株式に連動を目指す公募投信やETF(上場投資信託)の積み増し買いや、押し目買いを続けることで成長の果実を得ていくことが長期目線の資産形成に寄与すると考えています。

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