だまされやすさの心理傾向チェック、いい人ほどだまされる?

田代 自分自身がだまされないと思いながらだまされる方が非常に多いということですね。消費者庁がつくっている、「だまされやすさを測る心理傾向チェックシート」を今回、テスタさんと森永さんに回答してもらいました。

田代昌之さん

 消費者庁のホームページからどなたでも利用できます。A(勧誘者の信じすぎ)、B(売り口上の信じすぎ)、C(自分の欲しい衝動)の各5項目について1~5点で自分に当てはまりやすいものを評価します。「とても当てはまる」が5点で、「ほとんど当てはまらない」が1点といった具合です。

 75点満点で点数が高いほどだまされやすいことになります(勧誘を受けた際に契約してしまう確率、60点以上:約70%、50点台:約50%、40点台:約40%、30点台:約30%、30点未満:約25%)。自分がどれだけだまされやすいか事前に分かることができたら、詐欺を未然に防げるかもしれません。

消費者庁「だまされやすさを測る心理傾向チェック!

森永 僕は30点未満で一番低いランクでした。ただ、これは僕が優秀だからだまされないわけではなく、この半年ぐらいで嫌というくらい詐欺被害者とずっと対話を続けてきたので、何も期待しない体になってしまいました。おいしい話があっても褒められても全部詐欺だろうと斜めに構える癖が付きました。

テスタ 32点だったので、30点未満よりはだまされやすいレベルでした。褒められると弱い。素直な人やいい人ほどだまされてしまうと思います。すごく多いのが「信用できる人に言われた」というパターンです。信頼できる人自体がだまされているわけですね。

 その人がだまそうとしているわけではなくて、いい話だから友達に善意で勧めようとする。その人の言うことだったら信じてしまうことが増えている。「自分を絶対だます人ではないから、この人の言うことは100%大丈夫」ではなくて、その人もだまされているのではないか考えないといけないですよね。

田代 ちなみに私は50点でした。AとCの項目はほぼ5点でした。おだてられると弱いですね。ただ、Cの項目で「良いと思った募金にはすぐ応じている」「資格や能力アップにはお金を惜しまない」といったものがありますが、真面目な方やいい人の方がだまされやすさの点でデータ上高く出てきてしまうのかなというところです。

テスタ 素直な人や投資と無縁な世界でずっと生きてきた人ほど、引っかかってしまうかもしれないですね。

田代 50、60代の詐欺の被害が非常に多いということで、退職前後で老後のことを真剣に考えてしまうがために詐欺被害に結果的に遭ってしまうということですね。

テスタ 学校を卒業してからずっと同じ職業で頑張ってこられた方には他の世界のことを知らない方もいます。

 将来を考えて何かしようとなったときに退職金を全部なくしてしまった方も実際にいらっしゃいますから、親や祖父母に連絡を取って、「こういう話があるんだけど、大丈夫?」といった声がけが大切になります。自分は大丈夫でも周りが大丈夫か分からないので友達も含めてこうしたことを話題にすることが大事です。

政府、SNS事業者に広告の事前審査強化を要請

田代  政府は対策としてSNS事業者に広告出稿の事前審査基準を策定することやその公表などを要請しています(詳細は以下です)。

◇SNS事業者への主な要請内容

  • 広告の出稿前に事前審査基準の策定やその公表
  • 審査に当たっては日本語や日本の文化・法令などを理解する従業員を配置すること
  • LINEのような限られた利用者しか参加できないクローズドチャットを遷移先とする広告は原則、採用しないこと
  • 捜査機関からの情報を基に迅速に詐欺広告やアカウントを削除すること
  • 捜査機関からの紹介に対応する国内窓口の設置
  • 知らないアカウントを友達に追加するときに警告表示

◇法整備など

  • 5月に成立した情報流通プラットフォーム対処法の速やかな施行(しこう)。SNS事業者にネット上の違法・有害情報の削除対応の迅速化や運用状況の透明化を義務付け
  • SNS事業者が偽広告の放置などで刑事責任に問われる場合があり得ることを盛り込んだガイドラインの策定

 私は証券出身で金融業界の感覚からすると、SNS広告ではこれまで事前審査基準がなかったのか非常に緩い印象を持ったんですけど、森永さん、いかがお感じですか?

森永 実際どうか分からないのですが、広告審査をAIでしていると聞いたことがあります。AIによる広告審査は二つの基準で、一つは出血や暴力などのグロテスク、もう一つはアダルトで、AIでそうした動画や画像を落とせるというんです。

 でも、投資詐欺の広告では僕やテスタさんの写真を使っているだけなのでAIの審査を通ってしまう。グロテスクとアダルトの2軸でしか落とせないんだったら全く機能していない。

 審査のために人を使わないのか聞いたら、「コストがかかる」。プラットフォーム会社はコスト削減といって広告審査を緩めておきながら広告掲載料をもらっていますよね。そういう広告を載せることを許可して被害者を生んでいる…この構図はおかしいと思いますね。

テスタ 政府の対応は遅いと言われるわけですが、僕はちょっと違うと思います。対応がめちゃくちゃ早かったら問題になっていないわけです。

 問題になるのは対応が遅く見えるものしか問題になっていない。本当は10個中9個は早く対応している可能性もある。その全てを未然に防ぐことは不可能です。1人が声を上げたものを全部対策するわけにもいかない。たくさんの人が声を上げて初めて対策するのはある程度は仕方がない。遅い早いではなくて、どういう対応をするかに重点を置いて見てほしいと思います。

田代  ITジャーナリスト・高橋暁子さんのお話ではメタ社が偽広告の削除に力を入れてこなかったことを問題視しています。EU(欧州連合)ではSNS事業者が偽情報の拡散防止に取り組まなければ巨額の制裁金を課されるデジタルサービス法があって、日本でも刑事責任が問われる可能性があることを明確化して、SNS事業者に対応を促していく必要を指摘しています。

◇ITジャーナリスト・高橋暁子さんの話

「メタのようなグローバル企業はこれまで英語圏での対応を優先し、日本市場や社会を軽視してきたのではないか。メタは直近の決算で過去最高益を上げているのに、偽広告の削除や監視に力を入れてこなかったと思う」

「EUにはSNS事業者が偽情報の拡散防止に取り組まなければ巨額の制裁金を課されるデジタルサービス法がある。日本でも刑事責任が問われる可能性があることを明確化して、SNS事業者に重い腰を上げさせることが大切だ」と指摘。

SNS型投資詐欺の被害は50、60代が半数、だまされない対策は?ITジャーナリスト高橋暁子氏

 グローバル企業を相手にどこまでできるのかというところはあります。前澤友作さんがメタなどに偽広告を巡って「1円」の損害賠償を求める訴訟をしていますね。

自分のリテラシーを高める、相談できる第三者をつくる

テスタ 海外の会社ということもありますね。政府やSNS事業者がこういう取り組みをしていくことはもちろん大事ですが、被害に遭った方からしたらあまり意味がない。

 大前提として、自分の金融リテラシーを上げてまず引っかからないこと、お金は自分で守ることをまず考えてほしいです。自分のフィルターが高くないと、手を替え品を替え出てくる詐欺に引っかかってしまう可能性があります。勉強していくしかないです。

森永 被害者の中にはこれ以上自分のような被害を増やしたくないから、自分の事例をYouTubeやSNSでバンバン出して警鐘を鳴らしてくれという方もいます。

 そうした方に投資詐欺のニュースを見たことがないのか聞くと、意外なことに見たことがあって、ニュースの被害者のことを「正直ばかだなと思っていた」と話されるんですね。

 それなのにどうして詐欺に引っかかったのか聞くと、「この話だけは本当だと思った」とみんな同じ説明をするんです。他人の話だと引っかかるのはばかだと思うのに、自分の話になると違う。いわゆる正常性バイアスみたいなものにかかってしまう。

 僕がいつも言っているのは、自分ごとになると冷静な判断ができなくなるので、親や友達など話せる相手をちゃんとつくって、第三者の視点からダブルチェックするようにしないといけない。

 自己防衛をしているつもりでも当事者になると実は守りが効いていないケースがほとんどです。自己防衛する能力を高めることと同時に第三者的な視点を持つ話し相手を見つけること。この2段構えです。

テスタ 今どういう詐欺の手口がはやっているか常に調べることも大事です。ちょっと前にSNSではやったのは、お金を配るというものでした。それに登録するとあの手この手でお金を取られることにつながっていく。はやりは必ずあるので常にチェックしておかないとひっかかってしまう。全財産をなくすことすらあるので気を付けてほしいです。

本が自宅に届いて、グループチャットに誘導されるケースも

田代 今、日本銀行券が旧札から新札に切り替わるタイミングです。それに関する詐欺も警戒されています。

森永 「旧札が使えなくなる」といった最新ネタも詐欺師は仕込んできますね。僕が聞いた最新の詐欺の手口では、著者を名乗る人物から突然本が届くそうです。僕や父、テスタさんが書いた本とか。

 受け取った人は著者から届いたと、うれしくなって本を開くと、名刺が挟まっている。「本を読んでくれてありがとうございます。LINEをしませんか」と書いてあってQRコードが記載されている。そうした手口に引っかかる人が多い。僕もテスタさんも知らない人に本は送りません。

 ラッキーと受け取るのはいいんですけど受け取るだけにしてください。そこに挟まっている名刺はすぐ捨てた方がいいです。

田代 本自体は本物ですか?

森永 本物です。送付先の住所がどうやって漏れているのか詳しくは分かりませんが、テスタさんが話した現金配りとかに応じてしまうと、そこで名簿が作られているようです。現金配りにすぐ反応する人は詐欺師からしたら、言葉は悪いですがカモなので、そうしたリストが流れるらしいです。

田代 詐欺は日進月歩で、最新のネタを使った手口がどんどん出てきます。新NISAがスタートして、日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)が史上最高値を更新したといったお金絡みのニュースが今ものすごく多い。そうした背景もあって、投資詐欺が広がっていると思います。

テスタ 投資というワードがはやったら詐欺師が集まりますし、AIがはやったらAIに詐欺師が集まります。詐欺師は世の中のトレンドに沿って来るので、常に気を付けてほしいです。おいしい話に乗らないことです。

田代 投資の世界に「絶対」「必ず」といった断定的表現はありません。

テスタ 投資で元本保証とうたうのは違法だし、資格を持たないのにお金を預かって増やしてあげるみたいな話も駄目なので、そういう矛盾に気付いてほしいですね。

田代 自分の金融リテラシーをどんどん上げていくことも必要ですね。

テスタ 何回もこの鼎談で言いましたけど、自分が大丈夫だからみんな大丈夫ではないです。自分は大丈夫だけど友達や家族は大丈夫かちゃんと聞いてみることが大切です。自分の周りの人に一回確認してほしいですね。

森永 詐欺に遭った方と話をして、単純にお金をなくすだけじゃなく、家族関係や友人関係がめちゃくちゃになったり、最悪な場合だと命を絶つケースもあったりします。気を付けすぎても気を付けすぎることはない。甘い誘惑に乗らないことを念頭に置いて警戒しながら接してほしいと思います。

テスタ氏

 投資の世界では誰もが知るカリスマ個人投資家。2005年に株のデイトレードを始め、6年目に1億円プレーヤーに。その後、中長期トレードも行うようになり、収支は19年連続プラス。2024年2月に総利益100億円を達成。Xのフォロワー数は82万4,000人(2024年7月19日現在)

森永康平氏(もりなが・こうへい)

 証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。その後、業務範囲は海外に広がり、インドネシア、台湾などアジア各国にて新規事業の立ち上げや法人設立を経験し、事業責任者やCEOを歴任。2018年6月、金融教育ベンチャーのマネネを創業。国内外のベンチャー企業の経営にも参画。

 著書に『スタグフレーションの時代』(宝島社新書)や父・森永卓郎との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)など多数。

田代昌之氏(たしろ・まさゆき)

 金融ジャーナリスト。1979年生まれ、北海道出身。中央大卒。新光証券(現みずほ証券)やシティバンクなどを経て、金融情報会社に入社。アナリスト業務やコンプライアンス業務、グループの暗号資産交換業者や証券会社の経営に従事。IFTA国際検定テクニカルアナリスト3次資格(MFTA®)を保有。酒と古地図と歴史をこよなく愛する。ラジオNIKKEIでパーソナリティを務める。