米早期利下げ期待後退と日銀マイナス金利解除後も緩和継続で、1ドル=152円の円安も

 ドル相場は、日経平均のバブル超えと同時に1ドル=152円を超えるのではないかとみていましたが、為替介入への警戒感や日銀への政策修正を期待しているのか意外と頭が重たい動きとなっています。

 しかし、日銀の植田総裁が、22日の衆議院予算委員会で足元の物価動向について、「デフレではなくインフレの状態にある」との見解を示しましたが、金利も株もドル相場もほとんど反応しませんでした。

 植田総裁が突然、金融引き締めにつながるインフレを語ったことも驚きましたが、同時にインフレと明言したにもかかわらず、市場の反応が鈍かったことにも驚きでした。マイナス金利解除の布石として語っただけで、それでも金融緩和は継続されると市場は見透かしたことからあまり反応しなかったのかもしれません。

 投機的なポジションの参考となるIMM(シカゴの通貨先物市場)の円売りポジションは、直近で12万778枚(2月20日時点)となっています。

 2022年10月の高値151円90銭台のころの円売りポジションとほぼ同じ水準であるため、米早期利下げ観測後退や日銀政策修正期待後退、日経平均のバブル超えなどは相当織り込まれてきたことが推測されます。そのため、円売り余地が少なく、円安の動きが鈍い相場となっているのかもしれません。

 ただ、現在の相場の変動が小さく、金利差も「米国利下げ・日本利上げ」の金利差縮小の見方から「米国利下げ時期後退・日本マイナス金利解除後も金融緩和継続」との見方に変わってきたことから、ここからさらに円キャリー取引が増える可能性があります。相場の変動が小さければ、為替相場の変動に伴う損失機会よりも金利差による利益機会の方が大きくなるからです。

 対ユーロや対ポンドなどのクロス円は対ドルよりも堅調な動きをしています。対ポンドでは1ポンド=191円台に上昇し、2015年8月以来のポンド高円安になりました。対ニュージーランドドルでも9年ぶりの円安水準になっています。

 米国以外の国も利下げ開始時期が後ずれすれば、それらの国の通貨に対する円安は続くことが予想されます。クロス円の円安スピードに比べると対ドルでの円安スピードは遅くなっていますが、1ドル=150円以上をしっかりと維持していることから、今の環境が続くのであれば、クロス円の円安にも支えられ、早晩、1ドル=152円を抜くかもしれません。

 米国株上昇、米長期金利上昇、ドル高、米早期利下げ観測の後退の構図は、米国景気がソフトランディング(米経済が後退せず軟着陸)のシナリオで動いていることが背景にあります。

 ソフトランディングシナリオについて米国銀行JPモルガン・チェースのダイモンCEO(最高経営責任者)は、26日、「市場はソフトランディングの確率を7~8割としているが、私はその半分とみている」と述べています。経済や金融システム全体を揺るがすような事態は想定していないようですが、先行きに慎重な姿勢を示しています。

 しかし、現在の米国経済は2023年7-9月期米国GDP(国内総生産)成長率4.9%、10-12月期3.3%と日米欧の中で3%以上の安定した成長を続けています。

 そして速報性があるため市場が注目しているアトランタ連邦準備銀行のGDPNowは今年の1-3月期成長率を3.2%と予測しており、引き続き3%成長となっています。この予測通りならソフトランディングシナリオが続く可能性があります。

米大統領選「もしトラ」から「ほぼトラ」、ドル安政策の思惑台頭も

 しかし、米大統領選の候補者が確定するにつれて、米国政治リスクが高まることが予想されます。市場は「もしトラ(もし、トランプ氏が勝ったら)」から「ほぼトラ」に移りつつあり、夏場に向けて経済も投資も慎重になることが予想されるため今年後半の動きには注意が必要です。

ドル相場の下記のような構図も夏場から変わる可能性もあるため注意が必要です。

 米経済のソフトランディング→米早期利下げ観測後退→米長期金利上昇→ドル高
 米経済のソフトランディング→米株上昇→日本株上昇→円安

 また、トランプ氏は自国産業保護のためドル安政策を取り、中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)に利下げ圧力をかけ、日本に対しても関税を引き上げてくるのではないかとの思惑も働きやすくなりそうです。