米国市場の動向次第で4万円通過も

 前回のレポート「NISA利用の長期投資は最高の生涯学習」内の「西側と非西側の分断が深まっても株価上昇」で述べた通り、2010年ごろから、世界で分断が深まり始めました。民主的度合いが高い国の数が減り始め、逆に民主的度合いが低い国の数が増え始めたためです。

 このきっかけとなったのが、リーマンショックからの経済回復・株価上昇を目指して西側諸国が「環境問題」と「人権問題」を提唱したことです。以下の図の通り、首尾よく「環境問題」と「人権問題」は西側諸国の経済回復・株価上昇の起爆剤となり、一定程度の効果が出ています(赤色の点線)。

 西側諸国は、環境問題をきっかけに石油を否定して電気自動車を普及させ、石油を生産している非西側諸国から自国に利益を移転させたり、人権問題をきっかけに違反がある非西側諸国で作られた綿製品を買わないことを呼びかけて当該非西側諸国を政治的に追い込んだりしました。

 こうした2010年ごろから西側諸国が推進しはじめた「正しいことをしているというアピール」は、今ではすっかり投資資金を集めるための行為に変貌し、正しさをアピールする西側の国・企業は莫大(ばくだい)な資金を獲得し、関連する株価は軒並み上昇しています。

 しかし同時に、西側の正しさアピールは非西側との分断を深めました。そしてこれらの結果、米国株上昇と世界的なリスク拡大が同時進行することとなりました。

図:リーマンショック起点の世界的なリスク拡大と米国株上昇の同時進行(筆者イメージ)

出所:筆者作成

 ある著名アナリストは、米国株の長期視点の動向について筆者と議論をしていた時、「米国株が下がったら、世界が大混乱に陥る(おちいる)じゃないですか、だから下がりようがないでしょう?」と述べました。

 つまりこのアナリストは、「米国株は世界中の投資家が望まない状態にはならない」と言っているのです。言い換えれば、「米国株市場は世界中の投資家の望みがかなう場である」となるでしょう。

 筆者の専門であるコモディティ(国際商品)の市場は、売り手と買い手の関係が比較的平等です。生産者(産油国や鉱山会社や農家など)の多くは価格上昇を望み、消費者(主に資源を持たない国々)は価格下落を望むためです。正反対の望みを持つ者たちがせめぎ合って価格が決まる世界に上昇至上主義は存在しません。

「経済の血液」といわれる原油の市場はまさに、正反対の望みを持つ者たちのせめぎ合いの場です。しばしば需給以外の要因で短期的な上下は起きるものの、価格推移が一方的になりにくいという意味で「現実」的だといえるでしょう。

 以下はその原油相場(≒現実)と、2010年ごろ以降、非西側を否定することをいとわない正義アピールで上昇しはじめ、下がるとみんなが困るとされる米国株の推移です。1984年1月に比べ、原油の足元の水準は2.4倍です。一方、米国株はなんと30倍です。

図:S&P500指数と原油相場の推移(1984年1月を100として指数化)

出所:Investing.comのデータをもとに筆者作成

 先ほどのアナリストの発言を耳にしてしばらくして、筆者の頭の中をよぎったのは、もはや米国株市場は「市場」ではなく「偶像(神や仏のような崇拝の対象)」と化しているのではないか、ということでした。

 もし本当に「偶像」化しているのであれば、米国株市場は大多数の市場関係者の願いに応えようと「上がるのは当たり前」「下がるに下がれなくなっている」「下がることを許されなくなっている」のかもしれません。

 その意味では、米国株式市場は、どこまでも上昇する可能性があるといえます。つまりそれは、海外に強く影響を受けている日経平均にも上昇圧力がかかり続ける可能性がある、4万円が通過点になる可能性もある、ということです。