中東で船舶への妨害行為が相次ぐ

 アラビア半島南部に位置するイエメンには、イスラム武装組織の一つ「フーシ派」の拠点があります。フーシ派はこれまで幾度となく、欧米を中心とした西側諸国に関わりが深い施設や船舶に攻撃を加えてきました。

 2019年に、同じくアラビア半島に位置するサウジアラビアにある世界最大規模の石油施設をドローンで攻撃し、同国の原油生産量を一時的に半減させた事件も、2023年10月下旬から続いている紅海(Red Sea)周辺での船舶への妨害行為もフーシ派によるものです。

図:フーシ派が妨害行為を行う紅海と欧州・東アジア間の主要な航路

出所:各種報道をもとに筆者作成

 日本企業が運航する貨物船を拿捕(だほ)したり、米国の軍用船舶をミサイルで攻撃したりもしています。このようなフーシ派による西側諸国に関わりが深い船舶への妨害行為を受け、数カ月前から一部の西側主要国が自国の船舶に紅海周辺を航行しないよう呼びかけたり、米英軍がフーシ派の拠点などを攻撃したりしています。

 上の図は、フーシ派による妨害行為が発生している紅海や、同海とアラビア海、ひいてはインド洋をつなぐ世界的な地理上の要衝「バブ・エル・マンデブ海峡(Bab-el-Mandeb Strait)」、そして東アジアと欧州を結ぶ主な航路を示しています。同海峡のアラビア半島側が、フーシ派の拠点があるイエメンです。

 フーシ派は2023年10月下旬、北に2,000キロ超離れたイスラエルに向けてドローンとミサイルを発射しました。これは、同月7日に勃発したイスラエルとガザ地区を実質的に支配するイスラム組織「ハマス」の戦争において、ハマスやガザ地区の住人に攻撃を加えるイスラエルに反発するためでした。

 イスラエル・ハマスの戦争下にあって、フーシ派とハマスの協力関係が改めて浮き彫りになる中、世界の大動脈に等しい紅海を含むバブ・エル・マンデブ海峡周辺で航行の安全が脅かされています。紅海の地中海側の出入り口は世界のコンテナ船貨物のおよそ三分の一が通過するとされるスエズ運河です。

 物流の局地的な目詰まりが起きたり、代替となる喜望峰(Cape of Good Hope)ルートを使用して運送コストが増えたりすれば、原材料価格高がもたらすインフレ(物価高)、いわゆるコストプッシュ型のインフレが世界的に再燃する可能性があります。

 フーシ派による船舶への妨害行為は、単なる中東で起きている一つの出来事ではなく、世界規模の出来事と捉える必要があります。