米大統領選でトランプ氏復権ならドル売りも?

 今年の世界十大リスクは金融市場にどのような影響を及ぼすでしょうか。金融市場にとって最大のリスクは、ブレマー氏も第1位に挙げている「米国の分断」です。米国の敵は米国(「The United States vs Itself」)と表現しているように、11月5日の米大統領選挙で「誰が勝っても分断と機能不全は深刻化する」と指摘しています。

 1月15日のアイオワ州での米共和党予備選でトランプ氏が過半数の票を得たことから、米メディアは驚きではないが、大統領選候補指名が確実になったと報じています。もし、トランプ氏が大統領になれば、各国との条約や国際関係ががらっと変わる可能性があるため、マーケットは身構えて大きく投資することはできなくなることが予想されます。

 第10位の「米国でのリスキーなビジネス」も同様です。米国の分断は米国市場が分断され、全米に展開する企業は特定の州からの撤退などを迫られる可能性があります。分断によって、企業や投資家は米国への買収や設備投資、株や債券、ドルへの投資を手控えることが予想されます。

 その時期は11月の大統領選挙を待つまでもなく、1月15日の米共和党大会で大統領候補者として指名された時点から、いや、それ以前にトランプ氏の候補指名が確実になった時点から、早ければ米大統領選予備選が集中する3月5日のスーパーチューズデーにも市場の警戒は始まるかもしれません。株は売られるかもしれませんが、金利は分かりません。

 警戒して安全資産として債券が買われ金利が下がることも予想される一方、米国を警戒して米債券は売られ、金利が上昇することも予想されます。ドルは、この金利の動きによって左右される一方、先行きの米国経済がトランプ氏の政権復帰を警戒して縮むことを警戒し、ドル売りに動くことが予想されます。

中国経済回復遅れは円安に、中東情勢悪化は円高材料に

 日本にとっては、第6位の経済回復できない中国のリスクも気になるところです。中国経済の回復の遅れは、日本経済にとっても影響することが予想され、景気が悪くなれば日銀の緩和継続が長引くとの見方が浮上することも予想されます。

 また、回復の遅い中国のデフレ輸出によって、日本の物価にも影響し、日銀の政策修正が後倒しになることも予想され、円売り材料となります。

 一方で第2位の瀬戸際の中東のリスクによって、中東で戦火が拡大すれば原油が上昇することも予想されます。日本の物価は上がり、日本銀行に対する政策修正期待が高まり、円高材料になるでしょう。また、ブレマー氏は昨年、トランプ氏が政権に復帰すれば、ロシアや中東に対する方針転換で原油が急上昇し、日本経済にとって深刻な問題となると指摘しています。

 この場合、景気への深刻度合いによって日銀が緩和継続となるのか、あるいは、それほど深刻でなければ景気よりも物価上昇に注目し、市場では政策修正への期待が高まることが予想されます。

 以上のように、さまざまシナリオが想定されるため、マーケットはポジション調整後動きづらくなり、様子見姿勢が続くことが予想されます。

米大統領選の政治リスク3月以降急浮上か、米利下げは要警戒

 年始からの対円のドル相場は上下に動きながら、結局、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)の早期利下げ観測と日銀の早期マイナス金利解除観測がそれぞれ後退したことによって円安が進みました。特に、米国の連休明けの16日、FRBのウォラー理事が早期の利下げに慎重な姿勢を示したことから金利は上昇し、1ドル=147円台の円安となりました。

 昨年12月に高まったFRBの早期利下げ観測と日銀の早期マイナス金利解除観測の反動も金利高、ドル高、円安へと後押ししたと思われます。

 米国CFTC(商品先物取引委員会)の円売りポジションは、昨年11月14日に13万0,249枚でしたが、直近1月9日には5万5,949枚へと半分以下になっています。円売りポジションが巻き戻され半減したということは、それだけ円買いが進んだということになります。

 そして別の言い方をすれば、円売り余力がその分生じたということになり、今年に入って日米金融政策の見方が後退したことによって、その余力が円売りを後押ししたと推測されます。

 今年に入ってからの米経済指標は強弱まちまちとなっています。米雇用統計は良かったものの、12月ISM非製造業景況指数は低下し、構成要素である雇用指数も前月から大きく低下し、3年5カ月ぶりの低水準となりました。CPI(消費者物価指数)は予想を上回ったものの、PPI(生産者物価指数)は予想を下回りました。

 景況指数については、16日公表のニューヨーク連邦準備銀行製造業景気指数がマイナス5.0の市場予想に対してマイナス43.7と大きく低下しました。この低下を無視するかのように対ドルで円安は進みましたが、18日公表のフィラデルフィア連銀製造業景気指数、19日のミシガン大学消費者信頼感指数によってその傾向を注目する必要があります。

 また、19日には日本の12月CPIが発表されます。上昇鈍化の予想ですが、物価高の鈍化が見られなければ、日銀への政策修正期待が復活することも予想されるため注目です。

 今年の経済環境では景気と物価・雇用動向、FRBの利下げ時期と利下げ回数、日銀の政策修正時期が注目点ですが、3月以降、米大統領選が政治リスクとして急浮上する可能性があるため注意する必要があります。政治リスクは経済環境とは別の大きな流れの中で為替の動きを見ていく必要があります。