行列のできるラーメン屋のラーメンはうまいか?

「ふむ。『人間は感情の動物』というけれど、それは、私達の行動が感情に支配されているからです。感情で動くのは、人間らしい、とも言えますが、今、学んでいる投資で重要なのは、同じ『カンジョウ』でも損得『勘定』のほうです。だから、得するよう、損しないよう、という意味で合理的に行動しなければいけません。でも、感情の動物である人間が、すべての出来事に対して合理的に対処することは不可能に近いでしょう。最愛の人を突然の事故で亡くしたとき、いきなり途方もない借金を抱えたとき、誰でも取り乱したり、茫然自失するでしょう」

「それは、どうしようもないじゃないですか。そんなのコントロールできたら、ロボットですよ」
「わたしもそう思います。ただ、最近は『行動経済学』といって、人の行動がなぜ合理的ではないかを研究した学問があります。これを勉強して知識を身につければ、合理的な投資がしやすくなります」

「行動経済学、ですか。どんなものなんですか」
「たとえば、『行列ができているラーメン屋』があったとしましょう。君は、特に何も考えず『行列ができているラーメン屋』イコール『おいしいラーメン屋』という推論をして、その通り行動するかもしれません」

「えっ、普通じゃないですか。それじゃいけないんですか?」
 隆一はそれほど変な話でもないと思いいぶかしげに聞きなおした。

「実は、人が意思決定をしたり判断を下したりするときに、論理的な推論の過程を省略して、直感で素早く解に到達する方法のことを『ヒューリスティックス(heuristics)』といいます。効率的で手っ取り早く結論を導くのはいいのですが、正しくその解を得るための論理的な手順を経る方法『アルゴリズム(algorithm)』ではないので、しばしば、バイアス(偏り)のある結論や、必ずしも正解とは言えない結論に至ることがあります。君は、ヒューリスティックスで行列ができたラーメン店が美味しいと行動したわけですね」と、先生は、答えます。

「はあ、そうなんですか。効率的で手っ取り早く結論を得たわけです」
 隆一の妙に楽観的で都合の良い解釈に、先生は眉をひそめながら続けた。