相場とも戦い、自分とも戦うための、行動経済学

「ここで、私は投資というものは、理論だけでは勝てないことを理解し、理論以外の勉強をし始めました」

 先生は席を立ち、本棚から何冊か本を持ってきた。
「『孫子』に『彼を知り己を知れば百戦殆からず』という格言があるのは知っていますか。先週、バブルの話から相場変動の特徴をお話ししました。それは『彼を知る』、相場という相手を知るためです。今日は、私のような失敗をしないために『己を知る』ための話です」

「己を知る、ですか?」
「ええ。自分が向き合う相場、彼のことを自分のことも知らなければ、投資の成功は望めないけど、それ以上に自分のことを知っておかないと、満足な投資はできません。相手を知るだけでなく、己のことも知っておけば、百戦して負けなし、というわけです。」

「でも先生、自分のことを、いまさら、勉強するんですか?」
「そうです。私達は自分が思っている以上に、自分のことを知りませんし、客観視できていないものです。投資では基本的な知識を身に付けたうえで、自分が、さまざまな局面で冷静かつ合理的に行動できるように訓練をしていくことが肝要です。ところが、この合理的な行動こそ『言うは易し、行うは難し』。多くの人は『冷静かつ合理的に行動』ができません。お金がからむとなおさらです」

「できそうで、できないですね。確かに自分もデイトレードをやっていたときは、自分をコントロールできませんでしたし、さっきの先生の失敗談を聞くと、やはり簡単ではなさそうですね」

「冷静で合理的に行動できる人というのは、物事を楽観的にも悲観的にも捉えないで、起きている現実をそのまま受け入れることができる人です。つまり、起きている現実は、どのような悲惨なことでも、都合の悪いことでも、目をそらしたり、あるいは、自分の都合よく解釈したりせずに、ありのままに認識することです。もちろん、逆もしかり。都合のよいこともです」

「当たり前といえば、当たり前のような気もするんですけどね」
「そう思うのですが、普通はそれができないのです」
「どんな局面でも、冷静沈着に行動できる人か。ゴルゴ13ですね」