※この記事は2018年6月1日に掲載されたものです。
投資小説:もう投資なんてしない⇒
第4章 合理的だという自意識過剰。「行動ファイナンス」で損失は減らせるか
<第1話>独りよがりな投資。相場は自分を中心に回らない
金曜日の夕方、隆一はいつものように営業日報を書いていた。
いつものように先輩の高田が寄ってくる。
「木村ちゃん、今日は飲みに行けるよね?」
「すいません、ちょっと今週も先約がありまして」
「何だよ、お前、最近付き合い悪くないか。俺と飲みにいきたくないのか?」
高田は不機嫌そうだ。
隆一は、毎週のこのやりとりにも疲れ、思い切って言い訳をした。
「先輩、実は毎週金曜に会計の専門学校に通いはじめたんです。なので、しばらく金曜の夜は難しくって。すみません」
「おっと、やる気出したのか。そりゃ、結構。さすがに無理強いもできんな」
「ありがとうございます。秋ぐらいにはそのコースも終わりますので、そうしたら毎週お付き合いします」
隆一は先生の元への道を急ぎながらも、先週のバブルの話を思い出していた。人気の少ない日比谷神社の横の階段を一段ずつ降りていき、ドアをノックすると、先生がいつものように笑顔で迎えてくれた。
「今日で4回目ですね。ちょうど折り返し地点です」
「もう折り返し地点ですか。正直、ようやくおもしろくなってきたと思っているんです」
「それはなにより。さて、今日は少し私の昔の経験を話しましょう」
先生はソファに座り直すと、天井を見るようにして目を閉じた。
隆一は、そう言えば先生のことをあまり知らないな、と思いながら背筋を伸ばした。