利下げが先か、リセッションが先か

 FRBは、利上げサイクルを終了するのか? FRBのタカ派メンバーは「仕事はまだ完了していない」と主張していますが、ハト派メンバーは、政策には遅効性があり、行き過ぎた利上げは将来のハードランディングの危険性を高めると反論しています。

 FRBがもし「景気抑制水準まで金利は高くなった」と考えているのならば、米国景気見通しがこれほど強いのはなぜなのでしょうか。米国景気がまだ過熱状態にあるならば、さらに利上げの必要があるでしょう。

 あるいは、 FRBとしては金利を十分に引き上げたつもりだったのに、中立金利が新型コロナ前の時代より上昇しているために、まだ引き締め状態になっていない可能性もあります。

 このまま利上げサイクルを終了するとしても、イコール利下げ開始ではないと、FRBは繰り返し強調しています。利上げの「早期終了」は、逆に利下げ開始を遅らせ、「高金利高止まり」の時期が長く続くことになるでしょう。

 FRBが量的緩和政策を終了したときも、イコール利上げではないとFRBは主張していました。ちょうど2年前の2021年12月のことです。ところが、利上げはその3カ月後の2022年から始まりました。この逆パターンで、来年2024年3月から利下げが始まるとマーケットは予想しています。

 FRBは、1970年代に金融引き締めを最後まで続けなかったためにインフレ再発を招いたというトラウマがあります。だから成長率が顕著に鈍化しない限り、FRBは金融緩和に踏み切れないのです。

 経済データから明らかなように、米国経済は予想よりはるかに好調です。この背景には、米個人消費の予想以上の強さがあります。雇用市場が堅調で、失業不安が少ないことから貯金を減らし消費を増やすという行動に駆り立てているのです。

 しかし、それはあくまでも表面で、実際は支出が前倒しされているだけのことです。2024年には、その反動で急速な消費の落ち込みが発生するリスクが高まっています。来年第1四半期には、雇用市場の就業者数がマイナスになる可能性も高いといわれています。積極的な消費行動は今年が最後かもしれません。

 米国の経済データが強ければ強いほど、皮肉なことにマーケットはハードランディングの確率を高めています。FRBがさらに強い手段に訴えることで、米経済の墜落事故の可能性が高まると予想するからです。金利市場が、2024年末のFF金利(政策金利)が2.5%まで低下するとの予想は、リセッションを織り込んでいるからです。