リスク要因の顕在化で株価が調整する可能性は否定できない

 上述した「メインシナリオ」は株価が一本調子で上昇し続けるという見通しではありません。大手テック株を中心とするグロース株が利益確定売りに押され、2023年に不調だったバリュー株に資金がシフトする循環物色も想定されます。

 特に景気のソフトランディングが現実化し、2024年後半からの米景気回復が視野に入ってくると、景気敏感株を中心とするバリュー株やラッセル2000指数に象徴される小型株が内需回復を期待して物色されていく可能性もあります。

 一方、「リスクシナリオ」としては図表4で示すようなリスク要因が顕在化すれば株式市場が調整を余儀なくされる公算が高まります。特に「金利再上昇リスク」ではFRBの利上げ継続や長期金利の反転上昇がバリュエーションの悪化を介してグロース株を中心に米国株を下落に追い込む可能性があります。

 また、「景気後退リスク」が顕在化すると景気敏感株を中心に株式がいったん売られる可能性もあります。中東情勢など「地政学リスク」が緊張度を増せば、原油相場が反転上昇してインフレリスクが再燃する事態が警戒されます。

「ワシントンリスク」では、2024年1月から2月にかけて連邦政府の「つなぎ予算」が期限を迎え、金融市場が債務上限問題や財政不安に直面するケースが警戒されます。

 11月5日の大統領選挙に向けてトランプ前大統領が当選する可能性が高まれば、バイデン現政権の外交・内政政策が覆される事態が想定され、一時的にせよ夏から秋にかけて市場が動揺する可能性がありそうです。

 ただ、(伝統的に)民主党より共和党の方が「小さな政府」や「規制緩和」を重視するプロビジネス(企業寄り)とされ、仮にトランプ前大統領(共和党)が当選しても株式市場が年末にかけて落ち着きを取り戻す可能性が高いと思います。直近では米国初の女性大統領を目指すニッキー・ヘイリー候補(前国連大使/共和党)を支持する大口献金者が増えており注目されています。

「中国リスク」については、不動産市況が低迷している中国が20%超と推定されている若年者層の失業率を改善できず個人消費を中心に景気回復ペースが失速することが懸念されています。米中の経済対立や対中輸出規制が米国企業の対中ビジネスに影響を与えるリスクも軽視できません。

 1月13日に予定されている台湾総統選挙の結果、親米派の与党(民進党)候補者・頼清徳氏が当選する場合、台湾海峡を巡る緊張が高まっていく懸念もあります。

 なお、現時点では想定し難い新たなリスク(ブラックスワン)が登場する可能性もあります。これらリスクの複数が顕在化すれば、図表1で示した「リスクシナリオ」のように不確実性の高まりを受けて株式市場のボラティリティ(変動)が大きくなる展開が警戒されます。

 筆者のメインシナリオとしては、2024年も米国市場では下落と復調を繰り返しながらS&P500が年末にかけて5,000を目指していくと見込んでいます。世界最大の資本主義国である米国経済の優位性、イノベーション(技術革新)の進展、株主に顔を向けた経営姿勢(自社株買いや増配傾向)を追い風に米国株式は長期的には堅調なトレンドをたどると見込んでいます。

 株価が一時的に下落する場面は、「リスクはリターンの母である」と理解したいと思います。米国株に時間分散しながら投資を続けていくことは国際分散投資の構築と資産形成に寄与すると考えています。

<図表4>2024年に警戒すべきリスク(株価変動)要因は?

*上記は参考情報であり、現時点では想定し難い新たなリスクが顕在化する可能性もあります。
(出所) 楽天証券経済研究所作成(2023年11月29日)

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