来年の正常化に「2%」の持続的・安定的実現という理由は使えない

 いずれにせよ、少なくとも来年の段階で、「2%」が持続的・安定的に達成できると判断するのは拙速だということが分かります。もちろん、一時的に名目雇用者報酬が4%に達することはあるかもしれませんが、アフターコロナの名目雇用者報酬とCPIの組み合わせが4%と2%に落ち着くのか、それとも3%と1.5%になるのか、それを見定めるには相当な時間が必要です。

 それでも、来年正常化(マイナス金利解除)に踏み切りたいのであれば、「2%」が持続的・安定的に達成できるという理由ではなく、別の理由を準備する必要があります。11月8日のレポートでも述べた通り、そのための舞台装置が「多角的レビュー」とみています。

 日本銀行が11月1日に公表した「経済・物価情勢の展望(2023年10月)」、いわゆる展望レポートを見ると、41ページから46ページにかけて物価に関するBOXが3つも掲載されました。

 多角的レビューに向けた分析の一端だと思われますが、それらの内容からは、来年の春闘が強かったとしても、「2%」が持続的・安定的に達成できると判断するのは決して簡単ではない、とのニュアンスが伝わってきます。

 さらに10日には、2,000~2,500の企業を対象に「1990年代半ば以降の企業行動等に関するアンケート調査」を実施すると発表しました。このように、ミクロ情報まで活用しようとしている当たり、日銀自身、「2%」が持続的・安定的に実現できると判断するのがいかに至難の業か、十分自覚しているのではないでしょうか。

 市場ではマイナス金利解除が来年の3月だ、いや4月だと喧しいですが、2013年の政府と日銀による共同声明による縛りや、「2%」が持続的・安定的に実現するかどうかの判断など、それほど単純ではないことが分かっていただけると思います。