意味のある分散・無意味な分散

 さて、運用にあって分散投資が重要であることを力説したが、特に個人の資産運用に目を転じると、分散投資が無駄あるいは不適切に行われている場合が少なくない。

「無意味に勇ましい」集中投資を除くと、典型的な間違いは「分散投資の重複」と「売買の時間分散」の二つだろう。

 前者は、例えば、同じ資産分野に投資する投資信託を複数買うような過剰な分散投資だ。特に、アクティブ・ファンドについて、「性質の違うものに分散投資する方がいい」と思う投資家が多いようだ。複数のアクティブ・ファンドに投資する結果がどうなるかと言うと、個々のファンドの特色が打ち消し合って、インデックス・ファンドに近い状態を、インデックス・ファンドよりも高い手数料と多くの手間を掛けて実現することになる。しかも、素人でなくとも、自分の投資の全体像を把握することが難しくなる。

 そもそも投資信託を買うということの主な目的は「少額でも分散投資の効果を手に入れること」なのだから、広く分散された対象に投資するファンドを一本買えばいい。

「投資ファンドの分散」ではなく「広く分散されたファンドへの投資」が正しい選択だ。

 投資アドバイザーはしばしば「コア・サテライト戦略」などと称して、インデックス・ファンドの「コア」にアクティブ・ファンドの「サテライト」を付加することを勧めるが、後者は無駄だ。はっきり言うと、アドバイザーが自分で自分の仕事を作り出しているに過ぎない。プロである年金基金も無駄なビジネスに付き合う「カモ」になることがあるし、彼ら自身にも自分で自分の仕事を作っている面がある。

 個人の運用に、「コア・サテライト戦略」を勧めるようなアドバイザーや書籍には近づかない方がいい。年金運用で使われているからという理由で勧めるのだろうが、考えが浅い。はっきり言って、もともと書くべき内容を持ち合わせていないのだろう。この種の無駄に付き合うのは、お金も、人生の時間ももったいない。

 また、売買タイミングを分散することを有効なリスク分散であるかのようにけん伝することも不適切だ。

 売買タイミングを分散すると、一般的には気が楽だし、何度も売り買いをすることが楽しい人もいるようだが、時期を分けて買ったところで、持っている株数・金額が同じなら一括で買った株とリスク・リターンは変わらない。

 積立投資が多くの人にとっていいのは、将来への貯蓄と投資を一緒に実行できるからであって、売買タイミングを分散できるからでも、平均買い値が有利になるからでもない。

 補足すると、先程ファンドマネージャーが、持ち株をグズグズ売るほうがいいと申し上げたのは、ポートフォリオのリスクと期待リターンと売買コストの関係を考えるとそれが最適だからであって、売りタイミングを時間分散することが有利だからではない。

 友達を減らすかもしれないけれどもはっきり書くと、ドルコスト平均法を「有利だ」と勧めるアドバイザーや書籍は、運用を正しく理解していない。