良い株、悪い株、普通の株

 株式ポートフォリオの運用については、保有銘柄の「売り方」についても一言述べておきたい。

 ファンドマネージャーとして仕事をしていると、「良い!」と思って買った株式が、大きく値上がりしたり、あるいは業績見通しが悪化したりで、売却したいと思う場合があるのだが、この場合に、保有している全株を「思い切りよく」一度に売ってしまうのは「悪手」である場合が多い。

 ファンドマネージャーが、ある銘柄を新たに保有する理由は、「その銘柄が、ポートフォリオに及ぼすリスクよりも相対的に他の銘柄よりも有利な期待リターンを持っている」と判断されるからだ。簡単に言うと、他の保有銘柄よりも「良い株」だと思うから新たに保有するのだ。

 しかし、時間の経過とともに、値上がりしたという好ましい理由にせよ、業況が悪化したという残念な理由にせよ、ポートフォリオから外したい状況がやって来る。いわば、「悪い株」になるのだ。この場合、売却候補であることは言うまでもない。

 ただし、良し悪しを伴う判断には、しばしば「程度」あるいは「中間」が存在する場合がある。ポートフォリオに保有するある銘柄が「良い株」から「悪い株」に変わる場合、いわばその中間の「普通の株」の時期を経過することが多い。それでは、この状態の銘柄をどう扱ったらいいか。

「普通の株」は、「良い株」のようにポートフォリオのリスク当たりのリターンの効率を高めるとは期待できないが、分散投資の一部としてリスク低減の役には立っている。従って、わざわざ売買コストを掛けてまで削減しなくてもいい場合が多い。

 また、一銘柄の投資ウェイトがより小さくなると、その銘柄がポートフォリオ全体に与える影響が縮小するので、「普通の株」の状態の場合には、その保有銘柄の一部を売却すると、リスクと期待リターンの関係が改善する。

 つまり、「普通の株」の状態の時に、慌てて保有する全株を売るのは、もったいないことには理由があるのだ。

 こうした理屈が分かっている、あるいは、経験から実感して知っているファンドマネージャーは、素人から見ると「ぐずぐずしている」ように見えるかもしれないが、「実は、上手い」。

 前述のような「無理に勇ましい」ファンドマネージャーは、たまたま大金を持った素人投資家とあまり変わらない。場慣れしているので、立派そうに見えるだけだ。