「買いの質」の変化に注目

 では、こうしたイベントを無難に通過して株価の上昇基調が継続した場合ですが、どこまで株価が上昇しそうなのかが気になるところです。そのカギとなるのは、「買いの質」の変化になります。

 先ほどの、日米の株価指数のチャートでも見てきたように、最近までの株価上昇は、売り方の買い戻しが中心で、「弱気な相場見通しの修正によるポジション調整」によってもたらされた面が強いと言えます。

 そして、ここからさらに株価が上昇して行くには、「相場の先高観を背景とした買い」へと、買いの質が変わっていくことが求められます。

 今週のイベントや材料の動向次第では、この買いの質の変化がスムーズに移行して上昇の勢いの弾みがついて、夏場の高値あたりまで一気に株価が上昇するシナリオも浮上してきます。

「金利水準の背景」VS「株式の割高感」

 しかしながら、今週の株価が大きく上昇する場面を見せたとしても、過度な強気へと傾かない方が良いかもしれません。

 その理由として挙げられるのが、「米国の金利水準」と「株式の割高感」です。

図5 米10年債利回り(日足)の推移(2023年11月10日時点)

出所:楽天証券Webサイトを元に筆者作成

 まず、米国の金利水準ですが、米10年債利回りの推移のチャート(上の図5)を見ても分かるように、50日移動平均線を下抜けるところまで利回りが低下する場面があったり、25日移動平均線が下向きに転じるなど、金利上昇のピークアウト感が強まっています。

 とはいえ、先週末10日(金)の金利水準自体はまだ4.6%台とまだ高く、8月の高値(4.341%)や昨年10月の高値(4.246%)と比べても上に位置しています。

 さらに、下の図6では、米S&P500と、イールド・スプレッド(S&P500の株式益回りと米10年債利回りの差)の推移を示していますが、イールド・スプレッドの低空飛行が続いています。

図6 米S&P500とイールド・スプレッドの推移(2023年11月10日時点)

出所:Bloombergデータを元に筆者作成

 イールド・スプレッドの低下は、リスク資産である株式の益回りと、安全資産である債券の利回りを比べた時に、両者のあいだに差がなく、株式市場が割高であることを意味します。

 今後はイールド・スプレッドが上昇し、株式の割高感が解消できるかが注目されますが、そのためには、「企業の利益が増える」、「株価が下がる」、「金利が低下する」かが必要です。

 さらに、8月に10年債利回りが上昇した時は、米国景気の強さが背景にあったため、金利の上昇と共に、株価の上昇も伴っていましたが、足元で見せている金利低下傾向は、景気減速やインフレの落ち着きによる、米金融政策の引き締め緩和期待が背景となっているため、景況感が思ったよりも悪化するなど、状況次第では金利が低下しても株高とはならない可能性も考慮する必要があります。

当面の日経平均の予想レンジは3万0,500円~3万3,700円

 そのため、足元の相場は上方向への意識の強さを感じつつも、中長期的な見方は従来とあまり変わっておらず、当面の日経平均の予想レンジについてもこれまで通り、75日移動平均線乖離率をボリンジャーバンド化したものが有効となりそうです。

図7 日経平均75日移動平均線乖離率のボリンジャーバンド(2023年11月10日時点)

出所:MARKETSPEEDIIデータを元に筆者作成

 先週末10日(金)時点の75日移動平均線乖離率は、プラス圏内まで上昇してきましたが、チャート全体を見渡すと、概ねプラスマイナス5%の範囲内で推移していることもあり、先週末時点の75日移動平均線の値(3万2,150円)を元に計算すると、当面の日経平均の想定レンジは3万0,500円から3万3,700円あたりとなります。

 したがって、今週は多くのイベントや、「買いの質」の変化に注目しつつ、年末株高へ向けた動きの強さを見極める重要な週になるかもしれません。