有事の賞味期限に関する考察

 かつて「有事」は金(ゴールド)価格を急騰させました。顕著だったのは1970年代後半です。イラン革命が起きたり(1978年)、旧ソ連のアフガニスタン侵攻が勃発したり(1979年)、在イラン米国大使人質事件などが起きたりした(1979年)時期です。

 こうした有事の同時多発を受け、「有事の金」が目立ち、金(ゴールド)相場は1978年1月から1980年9月にかけて3.8倍になりました(173ドル→673ドル)。

 当時の金(ゴールド)市場は(その他のあらゆる市場も同様)、現在のような複雑さはありませんでした。現在は複数の材料の影響力を相殺しなければならない複雑さがありますが、当時は「有事→金(ゴールド)価格上昇」という単純な式で値動きを説明できました。

 単純な式で値動きを説明できた1970年代後半は、その他の材料の影響度が小さい分、ある意味「有事の賞味期限」を推測するための好例だといえます。この例を目安に考えれば、有事起因の上昇が継続する期間は2年程度、となるでしょう。

図:ドル建て金(ゴールド)の価格推移 単位:ドル/トロイオンス

出所:世界銀行のデータをもとに筆者作成

 2000年代に入り、世界各地でさまざまな戦争が起きたのにもかかわらず、長期視点で価格が上昇し続けているのは、有事以外の材料の影響力が大きくなったためです。

 中央銀行の買い(後述します)や、中国・インドの宝飾需要、見えないリスク(覇権争い、西側・非西側の対立)などです。特にリーマンショック(2008年)以降、米国などで大規模な金融緩和が行われたことがきっかけで、金(ゴールド)相場は「材料複合化時代」に突入しました。