雇用市場を犠牲にしてインフレを止めるしかない

 FRBは、これまでの利上げ効果を評価する時間が必要だという理由で9月の会合で利上げを見送りました。利上げの影響は今後じわじわと経済に表れてくると期待しているからです。とはいえ、米国の政策金利がピークに達したと結論づけるのはまだ早いでしょう。

 利上げ効果は、今年初めに起きたSVB(シリコンバレー銀行)の破綻の時点が最大だったのではないかとの見方が増えています。その後もFRBは利上げを続けていますが、新たに大きな金融機関が破綻したり米経済が減速したりするサインは見えません。これ以上いくら待っても無駄なようです。その一方で、バイデン政権は1年後に迫った大統領選挙対策として複数の大型財政支出の検討を始めました。原油価格は再び上昇を始め、前期比25%も高くなり、米国の原油在庫は半減しています。

 米国のインフレは、このような状況で今後上昇することはあっても、劇的に低下する可能性は低いようです。ボウマンFRB理事は、エネルギー価格がさらに上昇した場合、インフレ低下は遠のき、再利上げが必要になるとの考えを示しました。

 FRBの立場から見ると、米国の政策金利はまだ十分に引締め的ではないということになります。パウエルFRB議長は9月のFOMC後の記者会見で、中立金利(インフレにもデフレにもならない金利水準)が想定より高くなっている可能性があると、初めて公式に認めました。利上げがまだ足りていないのです。

 インフレと利上げの追いかけっこがさらに続くならば、米国経済がハードランディング(景気後退)するリスクは高まります。ハードランディングを回避するには、インフレを2%以下に抑制しながら、失業率を最大でも4%台で安定させることが条件といわれています。しかしパウエルFRB議長は、インフレ目標2%達成のために、4.5%以上の失業率もやむなしと考えています。

 シカゴ連銀総裁が「インフレと失業の二者択一に固執しすぎるのはよくない」と警告するように、失業率が、利上げサイクル終了後に0.5ポイント以上高くなったあと、米経済がハードランディングするケースは過去11回も発生しています。今回が12回になる可能性は否定でません。