先進国も新興国も負担大になる可能性あり

 では、「すぐさま急減」を、どのようにして達成しようとしているのでしょうか。以下は、NZEシナリオが示す、先進国と新興国・途上国が排出する温室効果ガスの排出量の推移です。

 NZEシナリオは先進国について、すでに温室効果ガス排出量の減少が始まっており、今後はその傾向を強めることを想定しています。2045年以降は排出量が吸収量(排出枠を購入したり回収して貯留したりして作る)を下回る状態「カーボンネガティブ」を達成することも、想定しています。

 一方、先進国の排出量のおよそ2倍の規模である新興国・途上国については、今まさに増加傾向にある排出量が「これからすぐに急減」することを想定しています。

図:IEAが示した2050年までの温室効果ガス排出量

出所:IEA(国際エネルギー機関)のデータをもとに筆者作成

 規模が大きいこと、いままさに増加傾向にあること。これらを併せ持つ新興国・途上国で、温室効果ガスが「これからすぐに急減」することを、NZEシナリオは想定しています。直接的な排出量削減への負担の大きさは、先進国よりも新興国・途上国のほうが大きいと言えそうです。

 一方、新興国・途上国を支援することが前提となっている先進国は、金銭面での負担が膨大になる可能性があります。例えば、インドの2022年の二酸化炭素の排出量は、およそ26億トンでした(Energy Instituteのデータより)。

 冒頭でお見せした図「IEAのネットゼロ・シナリオ(2023年)における主要な数字」で示した二酸化炭素の価格(仮に2030年の想定である90ドル/トン)で算出した同国が排出した二酸化炭素の金額は、およそ2,340億ドル(35兆円相当)です。

 NZEシナリオでは、年月が経過すればするほど二酸化炭素の価格は上昇します。このため、仮に排出量が変わらなかったとすると、インドが排出した二酸化炭素の価値は、2040年に約1.7倍(およそ4160億ドル、62兆円相当)、2050年に約2.2倍(5200億ドル、77兆円相当)にも膨れ上がります。

 NZEシナリオは、新興国・途上国の直接的な、先進国の間接的な負担(金銭面の負担)が大きくなることを、想定していると言えるでしょう。