米雇用データ弱ければ、年内追加利上げの観測後退か

 FRBのパウエル議長が講演で指摘したように労働市場の逼迫(ひっぱく)が確認された場合は、9月利上げの見方が強まることが予想されるため、9月1日公表の8月米雇用統計が注目されます。雇用統計で強い数字が出れば、金利は上昇し、一段の円安ドル高が進むかもしれません。

 しかし、8月29日に発表された7月米雇用動態調査(JOLTS)求人件数が予想に対して882.7万件(前月比33.8万件減)と大幅に下回りました。金利は低下し、ドル売りとなりました。

 また6月の求人件数も速報値の958.2万件から916.5万件に修正され、大幅下方改定となりました。労働市場の逼迫の緩和を示す数字となったため、追加利上げ観測が後退しました。

 先行きの政策金利の織り込み度を示すFedウオッチは、パウエル氏のジャクソンホール会議の講演後、9月の利上げ確率は2割程度であり、11月や12月の利上げは5割程度となっていました。

 そしてJOLTS求人件数の発表後、9月利上げは2割を切り、11月以降は4割程度となっています。今後発表される雇用データ次第ではさらに確率が下がることも予想されます。

 JOLTSの求人件数に次いで、30日には民間が発表するADP雇用報告、そして9月1日に米雇用統計が発表されますが、注目度が高まっています。JOLTSが示したように相次いで弱い数字が出れば、年内の追加利上げ観測がかなり後退することが予想されます。

「円売れば良し」終了か、米利上げ最終局面で判断難しい相場に

 日本銀行の植田和男総裁はジャクソンホール会議で「基調的インフレは依然として目標の2%を若干下回っていると、われわれは考えている」と発言し、金融緩和姿勢を維持する方針を説明しました。

 このように日米金融政策の方向の違いが確認されたことから、週明けも円安が進み、29日(火)のドル相場は1ドル=147円台前半に乗せました。

 その後、先ほど紹介した米7月JOLTSの求人件数が予想を下回ったため、145円台後半まで円高となりました。FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げは最終段階に入っているため、「データ次第」で相場はこのように敏感に動きやすくなっているのかもしれません。

 パウエル氏は、米経済の過熱を警戒しているようですが、今後は利上げによる副作用の影響の顕在化が進むことも予想されます。そのため、一本調子の円安の見方は半身で臨む必要があるかもしれません。為替相場は米利上げ最終局面で思惑が交錯し、方向が定まらない展開が続くことも予想されます。

 また、直近の為替レートは、日本政府・日銀が昨年9月に実施した円買いの為替介入の水準(1ドル=145.90円近辺)を超えてきています。日本の通貨当局のけん制発言も頻度が増え、トーンも強まることが予想されるため、円を売りづらくなることも予想されます。円を売っておけば「良し」とする「easy trading」から難しい相場局面になるかもしれません。