過去2年、電力産業は巨額の赤字を計上

 あくまでも私見ですが、日本の政策当局が電力産業を大切に育てる政策を取ってこなかったことが、日本の電力株の財務を痛めてきました。

 エネルギー価格急騰によって、電力産業が巨額の赤字を計上することもその事例です。

電力九社、連結純利益:2022年3月期実績~2024年3月期予想

コード 銘柄名 2022年
3月期
2023年
3月期
2024年
3月期
会社予想
9501 東京電力HD 56 ▲ 1,236 非開示
9502 中部電力 ▲ 430 382 2,300
9503 関西電力 858 176 3,050
9504 中国電力 ▲ 397 ▲ 1,553 590
9505 北陸電力 ▲ 68 ▲ 884 200
9506 東北電力 ▲ 1,083 ▲ 1,275 非開示
9507 四国電力 ▲ 62 ▲ 228 285
9508 九州電力 68 ▲ 564 900
9509 北海道電力 68 ▲ 221 非開示
出所:各社決算資料、億円未満切り捨て

 日本以外の国々では、電力インフラを守るため、燃料価格が上昇した時は速やかに電力料金の引き上げを認め、電力産業の財務が痛まないようにしています。電力産業について独占によって過剰に利益をあげることがないように規制しつつ、燃料価格上昇で財務が痛むことも無いように管理するのが普通です。

 ところが、日本では、エネルギー価格が急騰すると電力産業が巨額の赤字を計上します。2023年3月期と2022年3月期、日本の電力各社は、エネルギー価格急騰によって業績が大幅に悪化しました。コストアップに、電力料金引き上げが追い付かなかったからです。

 日本にも「燃料調整費制度」があって、通常だと遅れて料金引き上げが実現し、次の期には「期ずれ」で大幅な黒字をあげて利益を取り返すことができます。ところが、今回は利益を完全には取り戻すことができませんでした。その原因が二つあります。

 まず、個人向けの規制料金に上限価格があることがネックとなりました。上限を超えて燃料価格が高騰したため、料金に転嫁できずに、電力産業の負担となる部分が残りました。

 また、日本卸電力取引所での電気の市場価格が急騰したことも、電力各社の負担となりました。燃料調整費制度が、卸電力の高騰を考慮して調整される仕組みになっていなかったからです。規制緩和で新規参入した新電力は、このために破綻したところもありました。大手電力も大きな負担を強いられました。

 ただし、今期は、電力九社は軒並み、黒字転換する見通しです。電力料金の引き上げが通ってきた効果が出ます。上限価格の引き上げも一部認められ、燃料価格上昇による負担も減ります。中部電力の投資判断を「買い」に引き上げるのは、こうした環境変化によって業績が回復するからです。

 ただ、電力産業の財務を悪化させる根本問題は、未解決です。原発再稼働は見通せず、非稼働原発の負担は続きます。したがって、電力産業で買い推奨するのは、現時点では中部電力だけです。