異なる意図で金(ゴールド)を保有する

 先進国と新興国の関心事の差は、金(ゴールド)を保有する際の動機にも表れています。以下は、「金(ゴールド)保有時の意思決定に関連するトピックは何ですか?」という質問の回答結果です。

 全体的には、「歴史的地位」、「危機時のパフォーマンス」、「長期的な価値の貯蔵/インフレヘッジ」、「効果的なポートフォリオの分散化」などが高くなりましたが、先進国と新興国とで、トピックごとに差が生じていることがわかります。

図:金(ゴールド)保有時の意思決定に関連するトピックは何ですか?(2023年)(複数回答可)

出所:WGC(ワールド・ゴールド・カウンシル)の資料をもとに筆者作成

「歴史的地位」については、回答した先進国の中央銀行全て(100%)が選択しましたが、新興国は三分の二強の69%にとどまりました。また、当該選択肢以外は全て、新興国の割合が先進国よりも高くなりました。

 新興国の中央銀行は、金(ゴールド)に対し、危機時でもパフォーマンスが上がる、長期的な価値保全・インフレヘッジに効果を発揮する、効率的なポートフォリオ構築に役立つ、デフォルトしない、流動性が高い、政治リスクを低減するなどを、期待しているようです。

 こうした結果から、同じ金(ゴールド)であっても、先進国の中央銀行は「伝統的資産」として認識、新興国の中央銀行は「戦略的資産」として認識していると、考えられます。

 金融工学が発達し、さまざまな金融商品や運用の形態が出現する中にあって、先進国の中央銀行は金(ゴールド)を、(非伝統的資産の対極にある)「伝統的資産」と位置付けていると考えられます。

 一方、新興国の中央銀行は、自国および周辺国の政治経済や通貨動向などに不安定さがあることを意識してか、自国を守るための「戦略的資産」として金(ゴールド)を保有していると考えられます(下位ではあるが、「制裁への懸念」「脱ドル政策の一環」なども選択されている)。

 上記をまとめれば、先進国の中央銀行は「伝統的資産」として金(ゴールド)を保有することで保有資産全体を整えることを目指し、新興国の中央銀行は「戦略的資産」として保有することで不安定さを低減・解消することを目指していると、考えられます。