毎週金曜日午後掲載

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1.生成AIブームとGAFAMの設備投資

 今回はAI半導体と半導体製造装置の関わりを分析します。

 2023年6月16日付け楽天証券投資WEEKLY「GAFAMのAI戦略(オープンAI×マイクロソフトに対して他の4社は如何に対抗するか)」で指摘しましたが、2022年11月30日にアメリカのAI研究機関「オープンAI」から文書生成AI「ChatGPT」が公開されて以来、世界的に生成AIブームが起きています。

 文書生成AIだけでなく、画像生成AIもベータ版が公開されています。オープンAIのGPT-4(ChatGPTの元になったGPT-3の次世代版)で画像生成が可能です。アドビの「Firefly」(アドビの独自開発)、シャッターストックの「Shutterstock.AI」(オープンAIの画像生成AI「DALL-E2」がベース)も使えるようになっています。この先には動画生成AIがあり、すでにいくつかの会社が動画生成AIのベータ版を公開しています。

 これまでの大規模AI、例えばネット通販や大手クレジットカード会社の顧客相談窓口で応対用に使うAI(大規模言語モデルの一種)は人々が毎日使うものではありません。多くの人々の使用頻度が多いAIとなると、検索AI、アシスタントAIなど少数です。ところが生成AIは企業の情報システムに装着された場合は、人々が日常的に仕事で使うAIになる可能性があります。

 GAFAMの中で他社に比べ設備投資が小さいアップル以外の4社の設備投資は2023年1-3月期に減少しました。しかし、生成AIの大ブームを見て、マイクロソフト以外で生成AIに対する積極姿勢を表明しているアルファベット、アマゾン・ドット・コムは2023年4-6月期から設備投資を増やす方針です(アマゾンは情報システムとネットワークの部分のみ増やし、物流向け投資は減らす方針)。メタ・プラットフォームズも、メタバース構築の目的で構築してきた大規模ネットワークへの投資を続ける方針です。今回の生成AIブームについて、オープンAIとともにブームの火付け役となったマイクロソフトは設備投資の方針を明らかにしていませんが、増加すると思われます。

 このように、アップルを除くGAFAM4社の設備投資は、2023年4-6月期から回復し増勢に転じると思われます。

グラフ1 アメリカの大手IT設備投資動向:四半期

単位:100万ドル、出所:各社資料より楽天証券作成

2.エヌビディアの好業績を改めて予想する

 GAFAMの中でアップルを除く4社が設備投資を増やし生成AIの需要増加に備えるということになると、データセンター投資とAIサーバーへの投資も増加することになると思われます。(GAFAM以外のものも含めてデータセンター投資は2022年後半から少し減速していました)。この動きは、データセンター用GPU最大手のエヌビディアの業績拡大に直結することになると思われます。

 2023年5月26日付け楽天証券投資WEEKLY「決算レポート:エヌビディア(今期は大幅増収増益へ、データセンター用GPUはさらなる高成長へ)」で述べたように、エヌビディアの2024年1月期1Qは、データセンター向けが過去最高の売上高を記録しました。また、今2Qの会社予想(予想レンジの平均値)は売上高110億ドル、営業利益48.4億ドルと過去最高業績を更新する見通しです。この動きから、楽天証券では2024年1月期を売上高450億ドル(前年比66.8%増)、営業利益190億ドル(同4.5倍)、2025年1月期を売上高630億ドル(同40.0%増)、営業利益310億ドル(同63.2%増)と予想しています。

 この予想について詳しく説明したいと思います。エヌビディアの業績は今後3~4年間急拡大すると予想されます。その論拠は、次の通りです。

1)エヌビディアのデータセンター用GPU「A100」に対して最新型の「H100」は価格が2倍以上する。

 日本では一部のディーラーが「A100」と「H100」の円ベースの販売価格をウェブサイト上に表記しています。他国では価格は一般には公表されていません。「H100」の1世代前の「A100」が発売された2020年5月(受注開始時)の価格はメモリ40GB版で約130万円(税込み)であり、当時の為替レート1ドル=107円で計算すると1.21万ドルになります。2022年5月に「H100」が受注開始となったときの価格が約475万円、1ドル=143円で3.65万ドルであり、その当時の「A100」は80GB版で約245万円、1.71万ドルとなります。したがって、「A100」から「H100」へ単純に更新しただけで、エヌビディアのデータセンター向け売上高は2倍以上になる計算になります。

2)GPUが「推論」に進出することで、サーバーに装着されるGPUの個数が増えるだろう。

 AIの機能は、「機械学習」(現在では人間の脳の働き方を模した「ディープラーニング」が主流)と「推論」に大別されます。ディープラーニングによって大量の学習素材をAIに学ばせ、その学習をもとに質問者、命令者への返答(質問者、命令者が正しいと考えるであろう返答)を提示するのが推論です(ChatGPT、顧客相談窓口のチャットや電話応答用のAIのような「大規模言語モデル」では、質問者が正しいと考えそうな言葉を並べる)。

 10年以上前までは、ディープラーニング、推論ともにCPUで行っていました。ところが、2012年頃に複数の学術論文で、ディープラーニングはGPUで行ったほうが早く効率的にできることが明らかになりました。そこから、ディーラーニングはGPUで、推論はCPUで行うようになりました。

 ところが、「H100」では推論性能が大幅に向上しています。このため、GPUで推論を効率よく早く行うことができるようになりました。これを実現しようとすると、AIサーバーに搭載するGPUの個数が増えると思われます。ハイエンドのAIサーバーの場合、AMD、インテルの新型CPU2個とエヌビディアの「H100」を4~8個搭載するケースがありますが、今後を展望すると、「H100」でディープラーニングと推論の両方を行う場合、CPUの搭載個数よりもGPUの搭載個数が増加すると思われます。

3)データセンター投資が早ければ2023年4-6月期から、遅くとも2023年後半から再開へ。

 ChatGPTのような生成AIは、パソコンを使って仕事をする人たち(推定で全世界に10億~15億人いる)が日常的に使うものになるため、大規模ネットワークと大規模情報システムが必要になります。前述のように、アップルを除くGAFAMの設備投資は2023年1-3月期にいったん落ち込みましたが、4-6月期から再び回復すると予想されます(データセンター、ネットワーク、情報システムへの投資。アマゾンの物流投資を除く)。それ以外の企業のデータセンター投資も遅くとも今年後半には回復すると思われます。

4)大手企業が大手IT会社と組んで自社でAIシステムを開発、運用する可能性がある

 生成AIを企業の情報システムに組み込む場合、普通の企業では難しい場合が多く、大手クラウドサービスに頼むケースが多くなると思われます。ただし、企業規模が大きい場合は、自前のAIシステムを持つ動きも出てくると思われます。これまではAIサーバーの主要顧客はクラウドサービス会社でしたが、今後は大手企業も顧客になる場合があると思われます。

5)A100は昨年末から2次流通価格が上昇。「A100」「H100」ともに品不足で納期が長くなっており、値上げの話が出ている模様。

 このように見ていくと、エヌビディアの2021年1月期~2023年1月期のデータセンター向け売上高合計(323億ドル、3年間の売上高合計、概ね「A100」が主流だった時期)に対して、2024年1月期~2026年1月期の売上高合計(「H100」が主流の時期)は、保守的に見積もって4~5倍、普通に予想して5~6倍に拡大すると予想されます(値上げは考慮していない)。

 また、データセンターの中、サーバーの中にはGPUとCPUだけが入っているのではなく、各種のロジック半導体とメモリも入っています。データセンター投資再開によって、ロジック半導体メーカーが恩恵をうけることも予想されます(AMDのエンベデッド事業(組み込み事業、旧ザイリンクス事業)、オン・セミコンダクター、アナログ・デバイセスなど)。

 なお、データセンター用GPUの市場には、エヌビディア(A100、H100)、AMD(Instinct MI250、Instinct MI300(今年後半発売予定))、大手クラウドサービス会社の内製GPU(アマゾン、アルファベットの内製GPU)の3種類のプレイヤーがいます。エヌビディアとAMDのセグメント売上高等から推定すると、データセンター用GPUの市場シェアは、エヌビディア80%以上、クラウドサービスの内製GPU10%前後、AMD10%未満となります。今後はエヌビディアとAMDのシェアが上昇し、クラウドサービス内製はシェアが低下する可能性があります。

 当面、最も人気があるのはエヌビディアの「H100」、次に「A100」と思われますが、大手クラウドサービス会社中心に、複数の調達先を持ちたいという考えがあるため、AMDの「MI250」「MI300」にも一定の需要があると思われます。

表1 エヌビディアの業績

株価    408.22.22ドル(2023年6月29日)
時価総額    1,008,303百万ドル(2023年6月29日)
発行済株数    2,490百万株(完全希薄化後、Diluted)
発行済株数    2,470百万株(完全希薄化前、Basic)
単位:百万ドル、%、倍
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:EPSは完全希薄化後(Diluted)発行済株数で計算。ただし、時価総額は完全希薄化前(Basic)で計算。

グラフ2 エヌビディアの市場別売上高

単位:100万ドル、出所:会社資料より楽天証券作成。2024年1月期1Q会社予想は全売上高

グラフ3 エヌビディアの四半期業績

単位:100万ドル、出所:会社資料より楽天証券作成。注:2024年1月期2Q会社予想は予想レンジの平均値

表2 エヌビディアの市場別売上高(年度)

単位:百万ドル、%
出所:会社資料より楽天証券作成

3.AI半導体の需要増加と半導体設備投資

 エヌビディアのデータセンター用GPUの最新型「H100」は、300ミリウェハでEUV露光装置で露光できる限界までダイサイズ(チップサイズ)を大きくしている模様です。ダイサイズが大きいチップは歩留まりが比較的早く上限に達してしまうため、増産するにはウェハ投入を増やす、即ち、製造装置を増設する必要があります。

「H100」はTSMC4ナノラインで生産していますが、EUV露光装置を追加で調達するのは当面困難なので、1世代前のArF液浸露光装置とそれ以外の前工程装置の増設で増産することになると思われます。実は、TSMC、サムスンともに、アメリカで5ナノ工場を建設中ですが、完工が2024年になるので今の需要急増には間に合いません。また、最新型のAIサーバーではCPUにAMD、インテルの最新型CPU(AMDはGenoa、インテルはサファイア・ラピッズ)を1個または2個搭載します。AMDの「Genoa」と2023年12月期2Q発売予定の「GenoaX」「Bergamo」はいずれもTSMC5ナノで生産されます。そのため、5ナノ、4ナノの設備投資が重要になります。

 テスタも重要です。「H100」の検査には、ダイサイズが大きく、チップの内部構造が複雑なために、SoCテスタとしては最高性能のテスタ(価格は1.5億~2.0億円/台)を大量に並べる必要があります。

 また、データセンターの中にはサーバーとともに、大量の各種通信機器も設置されています。サーバーの中、通信機器の中には各種のロジック半導体(FPGAが多い)が搭載されています。40ナノ、20ナノ台のロジック半導体が多い模様ですが、データセンター投資の再開は、一桁ナノ台だけでなく、広い範囲で半導体設備投資に影響すると思われます。

 TSMCの設備投資について見ると、2022年12月期設備投資362.9億ドルに対して2023年12月期会社計画は320億~360億ドルですが、これが上限の360億ドル前後になるか、400億ドル前後に上方修正される可能性があります。競合するサムスン、インテルが2023年12月期に追随するか不明ですが、2024年12月期になると、アメリカのCHIPS法補助金による半導体工場着工が始まると思われるため、2024年は半導体セクター全体で半導体設備投資が活発になると予想されます。

表3 大手半導体メーカーの設備投資

出所:各社会社資料、報道より楽天証券作成
注:1ウォン=0.0008ドル。

4.3ナノチップセット搭載の新型iPhoneは売れるか?

 データセンター投資の増加以外にも半導体設備投資への刺激材料はあります。3ナノ半導体です。TSMCは2022年12月期4Q(2022年10-12月期)の後半(2022年12月ごろか)から3ナノの量産を開始しました(ウェハ投入開始)。

 今のところ、3ナノ半導体の最初のユーザーと搭載機器は、アップルが今年9~10月に発売すると思われる新型iPhone(iPhone15シリーズ?)になると思われます。

 過去の事例を見ると、チップセット(CPU、GPUと周辺半導体のセット)が世代交代するときにiPhoneの販売台数が増えています。2020年10月に発売されたiPhone12に5ナノチップセットが搭載されましたが、その時にも販売台数は増加しました(表4)。

 また、2022年は3月末から5月末までの上海ロックダウン、11月の中国鄭州市ロックダウンによってiPhoneの組み立て、特に人気の「Pro」仕様の組み立てが滞ったため、新型iPhoneを待っている人は多いと思われます。

表4 世界スマートフォン出荷台数:四半期ベース

単位:100万台
出所:iDCプレスリリースより楽天証券作成