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本レポートに掲載した銘柄アドバンテスト(6857、東証プライム)東京エレクトロン(8035、東証プライム)ディスコ(6146、東証プライム)レーザーテック(6920、東証プライム)アプライド・マテリアルズ(AMAT、NASDAQ)ASMLホールディング(ASML、アムステルダム、NASDAQ)

1.生成AIブームとGAFAMの設備投資

 今回はAI半導体と半導体製造装置の関わりを分析します。

 2023年6月16日付け楽天証券投資WEEKLY「GAFAMのAI戦略(オープンAI×マイクロソフトに対して他の4社は如何に対抗するか)」で指摘しましたが、2022年11月30日にアメリカのAI研究機関「オープンAI」から文書生成AI「ChatGPT」が公開されて以来、世界的に生成AIブームが起きています。

 文書生成AIだけでなく、画像生成AIもベータ版が公開されています。オープンAIのGPT-4(ChatGPTの元になったGPT-3の次世代版)で画像生成が可能です。アドビの「Firefly」(アドビの独自開発)、シャッターストックの「Shutterstock.AI」(オープンAIの画像生成AI「DALL-E2」がベース)も使えるようになっています。この先には動画生成AIがあり、すでにいくつかの会社が動画生成AIのベータ版を公開しています。

 これまでの大規模AI、例えばネット通販や大手クレジットカード会社の顧客相談窓口で応対用に使うAI(大規模言語モデルの一種)は人々が毎日使うものではありません。多くの人々の使用頻度が多いAIとなると、検索AI、アシスタントAIなど少数です。ところが生成AIは企業の情報システムに装着された場合は、人々が日常的に仕事で使うAIになる可能性があります。

 GAFAMの中で他社に比べ設備投資が小さいアップル以外の4社の設備投資は2023年1-3月期に減少しました。しかし、生成AIの大ブームを見て、マイクロソフト以外で生成AIに対する積極姿勢を表明しているアルファベット、アマゾン・ドット・コムは2023年4-6月期から設備投資を増やす方針です(アマゾンは情報システムとネットワークの部分のみ増やし、物流向け投資は減らす方針)。メタ・プラットフォームズも、メタバース構築の目的で構築してきた大規模ネットワークへの投資を続ける方針です。今回の生成AIブームについて、オープンAIとともにブームの火付け役となったマイクロソフトは設備投資の方針を明らかにしていませんが、増加すると思われます。

 このように、アップルを除くGAFAM4社の設備投資は、2023年4-6月期から回復し増勢に転じると思われます。

グラフ1 アメリカの大手IT設備投資動向:四半期

単位:100万ドル、出所:各社資料より楽天証券作成

2.エヌビディアの好業績を改めて予想する

 GAFAMの中でアップルを除く4社が設備投資を増やし生成AIの需要増加に備えるということになると、データセンター投資とAIサーバーへの投資も増加することになると思われます。(GAFAM以外のものも含めてデータセンター投資は2022年後半から少し減速していました)。この動きは、データセンター用GPU最大手のエヌビディアの業績拡大に直結することになると思われます。

 2023年5月26日付け楽天証券投資WEEKLY「決算レポート:エヌビディア(今期は大幅増収増益へ、データセンター用GPUはさらなる高成長へ)」で述べたように、エヌビディアの2024年1月期1Qは、データセンター向けが過去最高の売上高を記録しました。また、今2Qの会社予想(予想レンジの平均値)は売上高110億ドル、営業利益48.4億ドルと過去最高業績を更新する見通しです。この動きから、楽天証券では2024年1月期を売上高450億ドル(前年比66.8%増)、営業利益190億ドル(同4.5倍)、2025年1月期を売上高630億ドル(同40.0%増)、営業利益310億ドル(同63.2%増)と予想しています。

 この予想について詳しく説明したいと思います。エヌビディアの業績は今後3~4年間急拡大すると予想されます。その論拠は、次の通りです。

1)エヌビディアのデータセンター用GPU「A100」に対して最新型の「H100」は価格が2倍以上する。

 日本では一部のディーラーが「A100」と「H100」の円ベースの販売価格をウェブサイト上に表記しています。他国では価格は一般には公表されていません。「H100」の1世代前の「A100」が発売された2020年5月(受注開始時)の価格はメモリ40GB版で約130万円(税込み)であり、当時の為替レート1ドル=107円で計算すると1.21万ドルになります。2022年5月に「H100」が受注開始となったときの価格が約475万円、1ドル=143円で3.65万ドルであり、その当時の「A100」は80GB版で約245万円、1.71万ドルとなります。したがって、「A100」から「H100」へ単純に更新しただけで、エヌビディアのデータセンター向け売上高は2倍以上になる計算になります。

2)GPUが「推論」に進出することで、サーバーに装着されるGPUの個数が増えるだろう。

 AIの機能は、「機械学習」(現在では人間の脳の働き方を模した「ディープラーニング」が主流)と「推論」に大別されます。ディープラーニングによって大量の学習素材をAIに学ばせ、その学習をもとに質問者、命令者への返答(質問者、命令者が正しいと考えるであろう返答)を提示するのが推論です(ChatGPT、顧客相談窓口のチャットや電話応答用のAIのような「大規模言語モデル」では、質問者が正しいと考えそうな言葉を並べる)。

 10年以上前までは、ディープラーニング、推論ともにCPUで行っていました。ところが、2012年頃に複数の学術論文で、ディープラーニングはGPUで行ったほうが早く効率的にできることが明らかになりました。そこから、ディーラーニングはGPUで、推論はCPUで行うようになりました。

 ところが、「H100」では推論性能が大幅に向上しています。このため、GPUで推論を効率よく早く行うことができるようになりました。これを実現しようとすると、AIサーバーに搭載するGPUの個数が増えると思われます。ハイエンドのAIサーバーの場合、AMD、インテルの新型CPU2個とエヌビディアの「H100」を4~8個搭載するケースがありますが、今後を展望すると、「H100」でディープラーニングと推論の両方を行う場合、CPUの搭載個数よりもGPUの搭載個数が増加すると思われます。

3)データセンター投資が早ければ2023年4-6月期から、遅くとも2023年後半から再開へ。

 ChatGPTのような生成AIは、パソコンを使って仕事をする人たち(推定で全世界に10億~15億人いる)が日常的に使うものになるため、大規模ネットワークと大規模情報システムが必要になります。前述のように、アップルを除くGAFAMの設備投資は2023年1-3月期にいったん落ち込みましたが、4-6月期から再び回復すると予想されます(データセンター、ネットワーク、情報システムへの投資。アマゾンの物流投資を除く)。それ以外の企業のデータセンター投資も遅くとも今年後半には回復すると思われます。

4)大手企業が大手IT会社と組んで自社でAIシステムを開発、運用する可能性がある

 生成AIを企業の情報システムに組み込む場合、普通の企業では難しい場合が多く、大手クラウドサービスに頼むケースが多くなると思われます。ただし、企業規模が大きい場合は、自前のAIシステムを持つ動きも出てくると思われます。これまではAIサーバーの主要顧客はクラウドサービス会社でしたが、今後は大手企業も顧客になる場合があると思われます。

5)A100は昨年末から2次流通価格が上昇。「A100」「H100」ともに品不足で納期が長くなっており、値上げの話が出ている模様。

 このように見ていくと、エヌビディアの2021年1月期~2023年1月期のデータセンター向け売上高合計(323億ドル、3年間の売上高合計、概ね「A100」が主流だった時期)に対して、2024年1月期~2026年1月期の売上高合計(「H100」が主流の時期)は、保守的に見積もって4~5倍、普通に予想して5~6倍に拡大すると予想されます(値上げは考慮していない)。

 また、データセンターの中、サーバーの中にはGPUとCPUだけが入っているのではなく、各種のロジック半導体とメモリも入っています。データセンター投資再開によって、ロジック半導体メーカーが恩恵をうけることも予想されます(AMDのエンベデッド事業(組み込み事業、旧ザイリンクス事業)、オン・セミコンダクター、アナログ・デバイセスなど)。

 なお、データセンター用GPUの市場には、エヌビディア(A100、H100)、AMD(Instinct MI250、Instinct MI300(今年後半発売予定))、大手クラウドサービス会社の内製GPU(アマゾン、アルファベットの内製GPU)の3種類のプレイヤーがいます。エヌビディアとAMDのセグメント売上高等から推定すると、データセンター用GPUの市場シェアは、エヌビディア80%以上、クラウドサービスの内製GPU10%前後、AMD10%未満となります。今後はエヌビディアとAMDのシェアが上昇し、クラウドサービス内製はシェアが低下する可能性があります。

 当面、最も人気があるのはエヌビディアの「H100」、次に「A100」と思われますが、大手クラウドサービス会社中心に、複数の調達先を持ちたいという考えがあるため、AMDの「MI250」「MI300」にも一定の需要があると思われます。

表1 エヌビディアの業績

株価    408.22.22ドル(2023年6月29日)
時価総額    1,008,303百万ドル(2023年6月29日)
発行済株数    2,490百万株(完全希薄化後、Diluted)
発行済株数    2,470百万株(完全希薄化前、Basic)
単位:百万ドル、%、倍
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:EPSは完全希薄化後(Diluted)発行済株数で計算。ただし、時価総額は完全希薄化前(Basic)で計算。

グラフ2 エヌビディアの市場別売上高

単位:100万ドル、出所:会社資料より楽天証券作成。2024年1月期1Q会社予想は全売上高

グラフ3 エヌビディアの四半期業績

単位:100万ドル、出所:会社資料より楽天証券作成。注:2024年1月期2Q会社予想は予想レンジの平均値

表2 エヌビディアの市場別売上高(年度)

単位:百万ドル、%
出所:会社資料より楽天証券作成

3.AI半導体の需要増加と半導体設備投資

 エヌビディアのデータセンター用GPUの最新型「H100」は、300ミリウェハでEUV露光装置で露光できる限界までダイサイズ(チップサイズ)を大きくしている模様です。ダイサイズが大きいチップは歩留まりが比較的早く上限に達してしまうため、増産するにはウェハ投入を増やす、即ち、製造装置を増設する必要があります。

「H100」はTSMC4ナノラインで生産していますが、EUV露光装置を追加で調達するのは当面困難なので、1世代前のArF液浸露光装置とそれ以外の前工程装置の増設で増産することになると思われます。実は、TSMC、サムスンともに、アメリカで5ナノ工場を建設中ですが、完工が2024年になるので今の需要急増には間に合いません。また、最新型のAIサーバーではCPUにAMD、インテルの最新型CPU(AMDはGenoa、インテルはサファイア・ラピッズ)を1個または2個搭載します。AMDの「Genoa」と2023年12月期2Q発売予定の「GenoaX」「Bergamo」はいずれもTSMC5ナノで生産されます。そのため、5ナノ、4ナノの設備投資が重要になります。

 テスタも重要です。「H100」の検査には、ダイサイズが大きく、チップの内部構造が複雑なために、SoCテスタとしては最高性能のテスタ(価格は1.5億~2.0億円/台)を大量に並べる必要があります。

 また、データセンターの中にはサーバーとともに、大量の各種通信機器も設置されています。サーバーの中、通信機器の中には各種のロジック半導体(FPGAが多い)が搭載されています。40ナノ、20ナノ台のロジック半導体が多い模様ですが、データセンター投資の再開は、一桁ナノ台だけでなく、広い範囲で半導体設備投資に影響すると思われます。

 TSMCの設備投資について見ると、2022年12月期設備投資362.9億ドルに対して2023年12月期会社計画は320億~360億ドルですが、これが上限の360億ドル前後になるか、400億ドル前後に上方修正される可能性があります。競合するサムスン、インテルが2023年12月期に追随するか不明ですが、2024年12月期になると、アメリカのCHIPS法補助金による半導体工場着工が始まると思われるため、2024年は半導体セクター全体で半導体設備投資が活発になると予想されます。

表3 大手半導体メーカーの設備投資

出所:各社会社資料、報道より楽天証券作成
注:1ウォン=0.0008ドル。

4.3ナノチップセット搭載の新型iPhoneは売れるか?

 データセンター投資の増加以外にも半導体設備投資への刺激材料はあります。3ナノ半導体です。TSMCは2022年12月期4Q(2022年10-12月期)の後半(2022年12月ごろか)から3ナノの量産を開始しました(ウェハ投入開始)。

 今のところ、3ナノ半導体の最初のユーザーと搭載機器は、アップルが今年9~10月に発売すると思われる新型iPhone(iPhone15シリーズ?)になると思われます。

 過去の事例を見ると、チップセット(CPU、GPUと周辺半導体のセット)が世代交代するときにiPhoneの販売台数が増えています。2020年10月に発売されたiPhone12に5ナノチップセットが搭載されましたが、その時にも販売台数は増加しました(表4)。

 また、2022年は3月末から5月末までの上海ロックダウン、11月の中国鄭州市ロックダウンによってiPhoneの組み立て、特に人気の「Pro」仕様の組み立てが滞ったため、新型iPhoneを待っている人は多いと思われます。

表4 世界スマートフォン出荷台数:四半期ベース

単位:100万台
出所:iDCプレスリリースより楽天証券作成

5.半導体製造装置各社の業績動向と目標株価

アドバンテスト

 前述したように、H100はダイサイズが大きいため、一度にテストできる個数が少なく、チップの回路も複雑なのでテスト時間も長くかかります。そのため、アドバンテストのSoCテスタの中でも最高性能のV93000シリーズの中でも高価格帯(1.5億~2.0億円/台)の需要が増加すると思われます。これはAMD、インテル、エヌビディアのサーバー用新型CPUも同じ傾向であると思われます。

 一方で、アドバンテストは3ナノ半導体量産の初期は、その恩恵をほとんど受けることができないと思われます。これは、アップルが調達する半導体用のテスタの多くをテスタ市場2位のテラダインが受注している模様であるからです。

 2023年3月期決算時の会社側の2024年3月期見通しは、売上高4,800億円(前年比14.3%減)、営業利益1,050億円(同37.4%減)です。会社側の見方は、今1Q(2023年4-6月期)に業績が急減して、その後緩やかに回復するものの、通期では二桁減収減益になるというものです。

 これに対して楽天証券では、会社予想通り2023年4-6月期は業績急減が予想されるものの、データセンター投資再開、AI半導体需要増加の寄与で、会社予想よりは速いスピードで回復すると予想しました。データセンター向けだけでなく、自動車向け、産業向けの20ナノ台、40ナノ台のロジック半導体向けテスタも順調に伸びると予想されます。この分野はロジック半導体の機能が複雑になっているため、以前に比べると価格の高いテスタが必要になるか、あるいはテスタの必要台数が増加する傾向があります。

 ただし、iPhone以外のスマートフォンは売れ行きが悪く、パソコン等の民生品向けも販売減少が続くと思われるため、2024年3月期は楽天証券の前回予想、売上高5,100億円(前年比9.0%減)、営業利益1,240億円(同26.1%減)を維持します。

 一方2025年3月期は、エヌビディア、AMDのAI半導体と、この2社にインテルを加えたサーバー用新型CPUの増産が進むと思われること、民生品向けを除くロジック半導体の販売増加にも期待できることから、SoCテスタの好調が予想されます。楽天証券では、2025年3月期前回予想の売上高6,400億円、営業利益1,700億円を、売上高6,500億円(同27.5%増)、営業利益1,900億円(同53.2%増)へ上方修正します。

 今後6~12カ月間の目標株価は、前回の2万円を2万6,000円に引き上げます。2025年3月期の楽天証券予想EPS(1株当たり利益)776.3円に、今の評価に近い想定PER(株価収益率)30~35倍を当てはめました。

 引き続き中長期で投資妙味を感じます。

表5 アドバンテストの業績

株価    19,025円(2023/6/29)
発行済み株数    184,214千株
時価総額    3,504,671百万円(2023/6/29)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:当期利益は親会社の所有者に帰属する当期利益。
注2:発行済み株数は自己株式を除いたもの。

表6 アドバンテストの事業別売上高

単位:億円
出所:会社資料より楽天証券作成。
注:四捨五入のため合計が合わない場合がある。

東京エレクトロン

 2023年3月期決算発表時の2024年3月期会社予想は、売上高1兆7,000億円(前年比23.0%減)、営業利益3,930億円(同36.4%減)です。業績は今上期に大きく落ち込んで下期に回復する予想ですが、通期では二桁減収減益になるというものです。

 これに対して前回の楽天証券予想は、2024年3月期は売上高1兆9,000円(同14.0%減)、営業利益4,800億円(同22.3%減)、2025年3月期は売上高2兆3,000億円(同21.1%増)、営業利益6,400億円(同33.3%増)と予想しましたが、これを2024年3月期は売上高2兆円(同9.5%減)、営業利益5,200億円(同15.8%減)、2025年3月期は売上高2兆5,000億円(同25.0%増)、営業利益7,000億円(同34.6%増)に上方修正します。

 エヌビディア、AMDのデータセンター用GPUとサーバー用新型CPU、3ナノ半導体の生産を受託しているTSMCの設備投資増額の可能性、中国における20ナノ台から昔の成熟半導体の設備投資が活発になっていることを考慮しました。

 今後6~12カ月間の目標株価は前回の2万5,000円を2万7,000円に引き上げます。楽天証券の2025年3月期予想EPS1,133.7円に今の評価であるPER20~25倍を当てはめました。前工程の東京エレクトロンとアプライド・マテリアルズの株価は、後工程のアドバンテスト、ディスコに比べ割安になっていると思われます。

 引き続き中長期で投資妙味を感じます。

表7 東京エレクトロンの業績

株価    20,775円(2023/6/29)
発行済み株数    468,361千株
時価総額    9,730,200百万円(2023/6/29)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:発行済み株数は自己株式を除いたもの。

アプライド・マテリアルズ

 2023年6月23日付け楽天証券投資WEEKLY「決算レポート:アドビ(主要製品に画像生成AI「Firefly」を組み込む)、アプライド・マテリアルズ(半導体製造装置市場は2023年後半から回復へ)」から投資評価は変更しません。目標株価170ドルを維持します。

 東京エレクトロンと同じく前工程メーカーの株価には割安感が出ています。

 引き続き中長期で投資妙味を感じます。

表8 アプライド・マテリアルズの業績

株価(NASDAQ)    144.23ドル(2023年6月29日)
時価総額    121,586百万ドル(2023年6月29日)
発行済株数    847百万株(完全希薄化後、Diluted)
発行済株数    843百万株(完全希薄化前、Basic)
単位:百万ドル、ドル、%、倍
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:EPSは完全希薄化後(Diluted)発行済株数で計算。ただし、時価総額は完全希薄化前(Basic)で計算。

ASMLホールディング

 ASMLホールディングの業績予想については、2023年12月期1Qまでの実績から、EUV露光装置、ArF液浸露光装置等の各露光装置について販売台数、単価、売上高予想を見直しました。

 その結果、EUV露光装置については、2023年12月期、2024年12月期の販売台数予想は前回予想を維持しましたが、販売単価を実勢に合わせて従来の予想よりも引き下げたため、2023年12月期、2024年12月期とも売上高予想を下方修正しました。

 一方でArF液浸露光装置は、生産能力が限られているEUVに比べて、KrF露光装置、ArFドライ露光装置とともに生産能力を大幅に増強中であり、人気も高いことから、売上高予想を上方修正しました。4ナノ、5ナノの生産ラインで作るAI半導体の生産能力増強のためにEUV露光装置の追加調達することは当面困難と思われますが、ArF液浸露光装置を調達してマルチパターニングするというやり方はあります。生産コストは高くなりますが、AI半導体は高価格なのでコスト増加を吸収できると思われます。

 この結果、2023年12月期は前回業績予想を維持しますが、2024年12月期は前回の売上高330億ユーロ、営業利益110億ユーロを、売上高345億ユーロ(前年比30.2%増)、営業利益118億ユーロ(同42.2%増)へ上方修正します。

 今後6~12カ月間の目標株価は、前回の850ドルを970ドルに引き上げます。楽天証券の2024年12月期予想EPS26.17ドルに予想増益率拡大に伴い想定PER35~40倍を当てはめました。

 引き続き中長期で投資妙味を感じます。

表9 ASMLホールディングの業績

株価(アムステルダム)    668.40ユーロ(2023年6月29日)
株価(NASDAQ)    723.35米ドル(2023年6月29日)
時価総額    285,362百万米ドル(2023年6月29日)
発行済株数    394.8百万株(完全希薄化後、Dilluted)
発行済株数    394.5百万株(完全希薄化前、Basic)
1ユーロ    1.0863ドル(2023年6月30日)
単位:百万ユーロ、ユーロ、米ドル、%、倍
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:EPSは完全希薄化後(Diluted)発行済株数で計算。ただし、時価総額は完全希薄化前(Basic)で計算。
注3:ASMLホールディングはアムステルダム、NASDAQに上場しているが、ここではNASDAQの株価でPERと時価総額を計算した。

表10 ASMLホールディング:機種別サービス別売上高

単位:100万ユーロ
出所:会社資料より楽天証券作成

表11 (参考)ASMLホールディング機種別売上高の前提

出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ4 ASMLのEUV露光装置:販売、出荷台数

単位:台、年度ベース、出所:会社資料より楽天証券作成、注:2021年12月期より受注台数は非開示。2025年12月期販売台数は楽天証券予想

ディスコ

 ディスコの業績は、半導体生産数量に概ね比例します。集積回路、ディスクリート半導体(トランジスタ、ダイオード、パワー半導体など)を問わず、半導体生産数量が増加すれば、ウェハから半導体チップを切り出すダイサ、ウェハの底面を削るグラインダと、各々のブレード(刃)の需要は増加します。

 2024年3月期は、データセンター向け、一般産業向け、自動車向け半導体と3ナノ半導体、SiCパワー半導体の生産数量は増加すると思われますが、民生品向けの低迷が続くと予想されます。ただし、2025年3月期になると、民生品向けの底打ち、3ナノ、データセンター向け、産業向け、自動車向けの増加と、現在急速に成長しているSiCパワー半導体の生産数量がさらに増加すると予想されるため、これが2025年3月期のダイサ、グラインダ需要に対してプラス寄与すると予想されます。SiCウェハはシリコンウェハに比べ加工しにくいため、価格が高いレーザーソーを使うなどシリコンウェハの加工とは異なる機械を使います。SiCパワー半導体の増加も業績に寄与すると思われます。

 これらのことを総合的に考え、楽天証券ではディスコの2024年3月期を前回の売上高2,500億円、営業利益830億円から売上高2,550億円(前年比10.3%減)、営業利益860億円(同22.1%減)へ若干上方修正します。また2025年3月期は前回予想の売上高3,000億円、営業利益1,050億円から売上高3,200億円(前年比25.5%増)、営業利益1,180億円(同37.2%増)へ上方修正します。

 今後6~12カ月間の目標株価を前回の1万9,000円から2万7,000円に引き上げます。楽天証券の2025年3月期予想EPS784.8円に、今の評価であるPER35~40倍のレンジよりも低い想定PER30~35倍を当てはめました。民生品向け半導体の生産数量回復が遅れる可能性があることを織り込みました。

 中長期で一定の投資妙味があると思われます。

表12 ディスコの業績

株価    22,505円(2023/6/29)
発行済み株数    108,302千株
時価総額    2,437,337百万円(2023/6/29)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:発行済み株数は自己株式を除いたもの。
注3:2023年4月1日付けで1対3の株式分割を実施。これに対応して過去の配当額を遡及修正している。

レーザーテック

 2023年5月19日付け楽天証券投資WEEKLY「決算レポート:レーザーテック(受注に底打ち感がある)、アドバンテスト(会社予想では今期減益だが、早期回復の可能性がある)、東京エレクトロン(今上期は大幅減益見通しだが、下期から回復へ)、スーパー・マイクロ・コンピューター(新型GPU、CPU搭載サーバーへの需要が強い)」から業績予想は変更せず、目標株価3万3,000円を維持します。

 当面の焦点は、8月7日の2023年6月期決算発表において会社側が発表するであろう2024年6月期の受注高、受注残高見通しがどうなるかです。3ナノ半導体は需要好調が予想されるため、レーザーテックのEUV用フォトマスク欠陥検査装置「ACTIS A150」(光源にEUV光を使うタイプで、このタイプはレーザーテックがシェア100%を持つ)の需要は増加すると予想します。受注残も豊富なので豊富な受注残を生かして2024年6月期、2025年6月期とも、好業績が予想されます。

 引き続き、中長期で投資妙味を感じます。

表13 レーザーテックの業績

株価    22,140円(2023/6/29)
発行済み株数    90,184千株
時価総額    1,996,674百万円(2023/6/29)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:当期純利益は親会社の所有者に帰属する当期純利益。
注2:発行済み株数は自己株式を除いたもの。

6.半導体製造装置関連の業界データ~半導体製造装置販売高は高水準を維持~

 最後に、半導体製造装置の業界データを見てみます。

 グラフ5の日本製半導体製造装置販売高(3カ月移動平均)は、2022年9月にピークを付けた後も、ピークよりは下落していますが、高水準な状態で推移しています。これを見ると、半導体設備投資の基調は今も強いと思われます。

 表13は2022年の各分野の半導体製造装置のシェアです。2022年の特徴は、毎年そうですが、強いものがますます強くなっていくということです。第2に、東京エレクトロンの市場シェアが低下しましたが、これは同社が売上高のほとんどを円建てで取引しているため、円安によってシェアが目減りしたものです。実際の契約件数や為替変動を除外して考えると市場シェアは上昇していると思われます。

 また、アドバンテストは、メモリ・テスタ、SoCテスタともに市場シェア50%以上となりました。ただし、2023年はアップルの新型iPhoneが3ナノ半導体を搭載するため、アップル向けに強いテラダインのシェアが上昇する可能性があります。

グラフ5 日本製半導体製造装置販売高(3カ月移動平均)

出所:日本半導体製造装置協会、単位:100万円

表14 半導体製造装置の主要製品市場シェア(2022年)

出所:会社資料、報道、ヒアリングより楽天証券作成。一部楽天証券推定。

本レポートに掲載した銘柄アドバンテスト(6857、東証プライム)東京エレクトロン(8035、東証プライム)ディスコ(6146、東証プライム)レーザーテック(6920、東証プライム)アプライド・マテリアルズ(AMAT、NASDAQ)ASMLホールディング(ASML、アムステルダム、NASDAQ)