米FOMC利上げ、6月見送りも7月追加の公算高まる

 先週2日に発表された米国の5月雇用統計は強弱まちまちの結果でした。景気動向を敏感に示す非農業部門雇用者数が市場予想の19万人を大きく上回り、33.9万人の増加となりました。

 さらに3、4月分については計9.3万人増と速報値から大幅に上方修正されました(3月:16.5万人増→21.7万人増 5.2万人の上方修正 4月:25.3万人増→29.4万人増 4.1万人の上方修正)。しかし、失業率は3.7%となり、4月の3.4%から急伸しました。

 そして平均時給は、4月の改定値は前月比0.4%増となり速報値(0.5%)から下方修正されました。5月は0.3%増と伸び幅がさらに縮まりました。

 インフレ要因である賃金の伸びが鈍化傾向を示し、失業率は悪化したものの、雇用者数の大幅増加で米国景気の堅調さが確認されました。このことから、米長期金利の上昇とともにドルは一時1ドル=140円台の円安となりました。

 週明け5日には、日経平均株価(225種)が33年ぶりに3万2,000円台に上昇するとともに、1ドル=140円台半ばまで円安が進みました。

 しかし、ニューヨーク時間に発表された、米5月サービス業PMI(購買担当者指数)の改定値が54.9(前月55.1)と速報値(55.1)から下方修正されました。そのすぐ後に公表されたISM(米サプライマネジメント協会)非製造業景況指数が50.3(前月51.9)となり、前月から低下し、予想も下回りました。このため米金利が下落し、ドルは一時139円台前半まで下落しました。

 現在のドル相場は1ドル=139円台を行き来しています。ただ、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)が13、14日に開くFOMC(米連邦公開市場委員会)では利上げ見送りが大勢の見方となっているため、ドルの上値は重たくなっています。

 しかし、同時に7月のFOMCでの利上げ期待もじわじわと高まってきているため、ドル売り圧力も弱くなっています。139円を割るようなドル安にはなりづらい状況です。来週のFOMCで今後の政策方針がはっきりするまでは動きづらい相場になるかもしれません。

 5月の相場を振り返ると、1ドル=133円台半ばから141円手前まで動き、1カ月を通じて円安が進みました。月間値幅としては7円超の値幅です。この円安の背景は、6月以降のFRBの金融政策について市場の見方が大きく変わったことです。また、米国債務上限引き上げ問題を巡る協議が難航していましたが、月末近くに合意に達したことも円安の大きな要因でした。

 FRBの金融政策については、5月3日のFOMCの声明文で追加金融引き締めが適切との文言が削除されたことや、FRBのパウエル議長が記者会見で、次回の利上げ停止の可能性を示唆しました。このことから、6月のFOMCで利上げは停止され、年内には利下げの可能性が高まったとの見方が優勢になり、ドル安が進みました。

 しかし、その後、米国の堅調な経済指標と予想を上回る物価指標によって米金利が上昇し、FRB高官からも追加利上げが必要などのタカ派発言が相次ぎました。市場の見方は6月の利上げはいったん様子見となっても7月には利上げの可能性もあるといったものに変わりました。

 そして、年内の利下げ観測も後退しました。つまり、「利上げ停止+年内利下げ」から「追加利上げ+年内利下げ後退」と大きく見方が変わりました。

 6月13、14日のFOMCでは「利上げなし」との見方が大勢となっています。同時に、利上げ停止ではなく、7月のFOMCでの利上げ期待も高まってきています。FRBは予想通り利上げを見送り、その後の利上げについてどのような姿勢を示すのかが鍵となります。6月で利上げ停止ではなく、その後の追加利上げを示唆するのかどうか、利上げ後の様子見期間が長引くのかどうか注目したいと思います。

 また、FOMCで3カ月ごとに示される金利見通しもしっかり押さえたいです。政策金利は現在、5.00~5.25%となっており、すでに3月のFOMCで2023年末金利見通しとして示された5.125%(中央値)に到達している水準です。この金利見通しが上方修正されると、FRB内で追加利上げの見方が広まっているということになります。

 修正幅によって、あと何回の利上げがあるのかを見極めることができます。しかし、FOMC参加者でも予想にばらつきがあり、金利を高く見積もる参加者がいても、中央値でそれほど上方修正されることがなければ、失望感の方が勝る可能性があります。

 同時に示される2024年末の金利見通しにも注目です。今年3月時点の見通しでは、4.25%(中央値)となっており、2023年末の見通しより低下しています。

 今回6月のFOMCで、2024年末の見通しが今年3月時点より上昇することになれば、利下げ時期が後退するとの見方が強まり、2023年末の見通しがあまり変わらなくてもドル買いに反応することが予想されます。金利見通しは2023年末と2024年末を同時に見る必要があります。

米利上げ終盤で円安さほど進まず、日銀政策修正観測再浮上も

 6月のドル相場は、来週、FOMC(13~14日)、ECB(欧州中央銀行、15日)、日本銀行(15~16日)の主要な中央銀行の金融政策決定会合が集中しているため、来週を挟んで相場地合いが変わる可能性があります。また、FOMCの初日13日には米5月CPI(消費者物価指数)が発表される予定です。相場は上下に荒れる可能性もあるため注意が必要です。

 そして6月のFOMC後、7月のFOMCでの利上げ期待が高まっても、円安がどんどん進むとみるのは早計かもしれません。現時点では、追加利上げがあってもあと1~2回との見方が大勢であり、今は昨年のように利上げ加速局面ではありません。従って、利上げ最終局面では円安の加速は望めず、円安も限定的になることが予想されます。

 また、15、16日の日銀の金融政策決定会合では、いったん後退している日銀の政策変更への期待が高まるかもしれません。米国の物価高は鈍化傾向ですが、日本の物価は食品価格や電気代などの値上がりで上昇傾向となっています。

 この日米の物価上昇ペースの違いは、金融政策にも表れます。米国は早晩利上げ停止・様子見となる一方で、日本は日銀がインフレを抑えるため政策修正に動くとの期待が再浮上してくることが見込まれます。市場の期待が高まるだけで円高に動くかもしれません。

 帝国データバンクの5月31日の発表によると、2023年1~6月の値上げが発表された飲食料品目数は1万9,442と、昨年同期(8,243品目)の約2.4倍となっているとのことです。また、5月末時点の2023年中の値上げは2万5,000品目超とのことであり、昨年1年分の2万5,768品目を上回るのは確実な情勢となっています。

 日銀の植田和男総裁は5月30日の参議院財政金融委員会で、物価について、「2023年度半ばにかけてかなりはっきり下がっていく見通しを持っている」と説明しながらも、「2023年度後半、2024年度以降の見通しは現時点ではかなり不確実なものだ」と語っています。

 今後の値上げ状況を見てみると、植田総裁の見通しのように物価が下がらないシナリオも想定しておいた方が良いかもしれません。

 日本の5月CPIは、6月23日発表のため、日銀の決定会合の参考指標にはなりません。13日の米5月CPIの公表は、FOMCや15、16日の日銀の決定会合にも影響を与えるかもしれません。日米の物価上昇ペースの違いを連想させ、市場の政策変更への期待を高める可能性があります。