米債務上限問題の妥結期待高まり、ドル高に

 先週は、米ミシガン大学が前週12日(金)に発表した5月消費者信頼感指数で、5年先の期待インフレ率が3.2%となり、4月の3.0%から上昇したことを受けて、ドル買いとなりました。

 さらに米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)高官からタカ派発言が相次ぎ、追加利上げの可能性が再燃しました。今年後半の利下げ観測が後退したためドル買いが強まり、直近の高値1ドル=137円台後半をあっさり抜け、19日には一時1ドル=138円台後半のドル高円安水準となりました。先週1週間で約3円のドル高円安が進んだことになりました。

 加えて、ドル相場の下落を招いた米政府の債務上限問題の協議について、妥結期待が高まったこともドル高を後押ししたようです。この債務上限とは、米政府が国債などで借金できる債務残高の枠のことです。上限に到達すると、米議会上下両院の承認を得て上限を引き上げなければ新規国債を発行できず、米政府が債務不履行(国債のデフォルト)になる可能性があります。

 この問題を巡っては、野党共和党のマッカーシー下院議長が18日、債務上限を引き上げる法案を今週、下院に提出できるとの見通しを示し、交渉は前週よりも良い環境にあると発言したことから期待が高まったようです。

 こうして、19日には一時1ドル=138円台後半のドル高円安に傾きました。

FRBで議長は利上げ停止示唆も、タカ派の強気発言相次ぐ

 しかし、FRBのパウエル議長が同じ19日の講演で、「信用状況が逼迫(ひっぱく)する中、目標達成のために政策金利をそれほど引き上げる必要がないかもしれない」と述べ、昨年3月から続いた利上げの停止を改めて示唆しました。債務上限問題についても、交渉担当者間の協議が中断したとの報道が伝わり、1ドル=137円台半ばまでドル安円高となりました。

 ただ、パウエル議長の利上げ停止示唆の発言はFRB内のタカ派をけん制したものだともいわれていますが、その後もタカ派から強気な発言が相次ぎ、ドル高に傾き、1ドル=138円台に戻しています。

 その後、債務上限問題については、G7広島サミット(先進7カ国首脳会議)から帰国したバイデン大統領とマッカーシー下院議長との会談が22日に再び行われました。イエレン財務長官は会談に先立ち、6月1日にも政府の資金繰りが行き詰まる可能性が「非常に高い」と再度警告の書簡を両氏に送りましたが、この会談では合意に達しませんでした。

 為替市場は、22日の会談でまとまらなかったとの報道に対してドル安円高にはあまり動かず、「どうせ決着するだろう」といった楽観的な見方を反映しています。「米国防総省近くで大規模爆発」との虚偽報道の影響で一時円高に傾く場面もありました。

 債務上限問題については、まだまだ半身の構えで臨む必要がありそうです。

 なぜなら、バイデン氏とマッカーシー氏が合意しても、あと1週間余りでマッカーシー氏が共和党内の保守強硬派を説得して党内をまとめるのはかなり難しいとの見方も根強いからです。

 為替相場は、1ドル=138円台で奇妙な均衡を保っています。楽観的な見方の債務上限問題、パウエル氏のタカ派けん制発言の無視など、ドル安要因を棚上げした円安が続いています。

ドル高の不安定な均衡、米地銀の経営不安いまだ収束せず

 他にもドル安要因はくすぶっています。米国の地方銀行の経営不安は、まだ収束したわけではありません。イエレン財務長官は、18日の会合で米大手銀行のCEO(最高経営責任者)に対し、さらなる銀行合併が必要になるかもしれないと伝えたと報道されました。この報道を受けて19日の米地銀株は急落しました。

 また、日本経済新聞グループの金融情報サービスQUICKが22日に国内投資家らを対象にした5月の外為月次調査を発表し、米地銀の連鎖破綻が今後も続くとみる回答が55%と過半数に上りました。今後も米金融不安がくすぶり続ける場合、為替市場は円高になるとの予想が目立つとの内容でした。

 このように1ドル=138円台のドル高円安水準も、何かのきっかけで崩れる不安定な均衡かもしれません。ここからは注意して相場に臨む必要がありそうです。

日本株活況が円売りを誘発?

 また、海外投資家による日本株買いが強まったことが為替ヘッジの円売りを誘発したとの見方もあります。ドル建てで運用している海外投資家にとってドル高円安になると、日本株が上昇しても円資産の価値が目減りしてしまいます。そうした円安リスクを回避するために為替ヘッジ(円売り)を行うことがあります。そうした海外投資家による日本株買いと円売りの同時取引が、円安を後押ししたのではないかという見立てです。 

 ここで留意しなければいけないのは、利益確定売りや日本株相場の悪化によって、海外投資家が日本株を売却する時は、この為替ヘッジを外すことが予想されるため、円高要因になるという点です。

 23日の東京株式市場では、日経平均株価(225種)は9営業日ぶりに下落しましたが、それと同時に為替相場円高に動きました。この裏では、「日本株買いと円売りの為替ヘッジ」の逆の動きが働いたのかもしれません。どの程度の割合がヘッジされているのか、どの程度のインパクトが相場に影響するのかは分かりませんが、こういった仕組みは覚えておいて損はありません。

 今週は、26日(金)の米国4月PCEデフレーター(FRBが注目する物価指標)とミシガン大学消費者信頼感指数の5月確報値の公表に注目です。特にミシガン大の5年先の期待インフレ率の速報値が12日に発表された際に円安が進んだだけに、速報値より下振れた場合の反動は大きいかもしれません。