ドル相場、先週の値幅1円60銭と小さく

 先週のドル相場は、1ドル=133円台半ば~135円台前半のレンジを上下に動いた週でした。米ニューヨーク連邦準備銀行が17日(月)に発表した4月の製造業景気指数が前月のマイナスからプラスに大幅改善(マイナス24.6→プラス10.8)したことを受けて、ドル高となりました。

 19日(水)には英国の3月CPI(消費者物価指数)が前年同月比10.1%上昇となり、市場予想を上回ったことから、対ポンドで円が下落しました。さらに対ドルでも円は連られて円安となり、一時1ドル=135円台に乗せました。

 しかし、フィラデルフィア連邦準備銀行が20日(木)に発表した4月の製造業景気指数が、予想外の大幅マイナス(3月マイナス23.2→マイナス31.3)になりました。このことから、17日以降のドル高がほぼ帳消しとなりました。

 21日(金)には日本のCPIが発表され、生鮮食品を除く総合指数は前年同月比3.1%上昇と市場予想通りとなり、上昇率は前月から横ばいでした。しかし、生鮮食品とエネルギーを除いた総合指数が3.8%上昇と前月(3.5%上昇)より上昇率が拡大しました。

 これを受け、日本銀行の金融緩和修正期待から133円台半ばまで円高となりました。

 しかし、その後、米国で発表された米4月PMI(購買担当者景気指数)が予想を上回ったため再び134円台に戻しました。

 先週はこのように経済指標の強弱によってドタンバタンと動きましたが、週間の値幅は約1円60銭とそれほど大きくありませんでした。1ドル=134円台を中心とした動きで、先週の1日の値幅では1円を下回る日も増え、2月、3月の週と比べると小さな動きにとどまりました。

 2月は日本銀行の黒田総裁総裁の後任に植田和男氏が就くことが明らかになり、日銀の政策修正への思惑が広がりました。3月は欧米の金融不安騒動を受けて、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)による早期の利上げ打ち止めや利下げ転換への期待が高まりました。こうしたことから、2、3月は週間で3円以上動くことも多かったです。

 4月に入っては、相場変動のエネルギーは乏しくなってきているようです。

 今週には、日銀の植田総裁が就任して初めての金融政策決定会合(4月27、28日)、5月初めには、米国の金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)(5月2、3日)を控えているため、相場は動きづらくなっているだけなのでしょうか。あるいは強弱入り混じった経済指標が続き、先行きの景気が見極め難いことから投資家が慎重になっているのでしょうか。

 現時点ではまだ判断がつきかねますが、FOMCが終わっても相場にエネルギーが戻らなければ、後者の点を投資家は気にしているのかもしれません。さらに米国の債務上限問題、金融システム不安や金融規制強化による景気への悪影響なども重しになっている可能性があります。

 25日の米株式市場では、米地方銀行ファースト・リパブリック・バンクが前日発表した四半期決算で預金の約4割が流出したことが判明。このことから、金融システム不安による米景気先行き不安が高まって株価が下落しました。為替は、1ドル=133円台半ばまで円高になりました。

一つ目のヤマ場:日銀の金融政策決定会合(4月27、28日)

 まずは、今週27日(木)、28日(金)の日銀の金融政策決定会合に注目です。植田総裁は25日の衆議院財務金融委員会で「YCC(イールドカーブ・コントロール、長短金利操作)による金融緩和を継続することが適当だ」と述べ、10日の就任会見時と同じ考えを示しました。しかし、それでも市場の一部では植田体制となって初めての会合で緩和政策の修正があるのではないかという見方は消えてはいません。

 従って、会合でも金融緩和姿勢が続くような内容だと、政策修正を期待した一部の投資家が失望し、円売りで反応することが予想されます。ただ、これまでに何回もこの材料で反応しているため、円安になるとしても限定的な動きかもしれません。

 一方で政策修正の検討やこれまでの政策の点検を行うことを示唆すれば、為替は反動で円高に反応することが見込まれます。

 最近の植田総裁のハト派的発言で円安に反応しやすくなっていた分、反動による円高への反応は大きくなることも予想されるので、注意する必要がありそうです。

 また、日銀が3カ月に1回公表する展望リポートの経済見通しも要警戒です。特に注目したいのは物価見通しです。前回1月公表のリポートでは、物価上昇率の見通しを2023年度は前年度比1.6%上昇、2024年度1.8%上昇としていました。しかし、市場では、2023年度は2%近くの上昇に引き上げられるのではないかとの見方が出ています。

 また、今回新たに公表される2025年度見通しについては、1%台後半になるのではないかとの見立てもあります。

 今年度のCPI見通しが2%近くに上方修正されれば、金融緩和政策の修正期待から円高に反応することが予想されます。しかし、これは一時的な動きになるかもしれません。なぜなら、その後の2024、2025年度が継続して2%近くの上昇を維持しなければ、持続的な2%目標の達成はまだまだ遠いことになり、金融緩和は当面継続されるとの見方が強まるからです。このような見方には留意しておく必要があります。

 日銀の植田総裁は、24日の衆議院決算行政監視委員会で、物価上昇率は2023年度後半に2%を下回るという見方を示しました。また、この見通しに沿って金融緩和を継続するという姿勢を示しました。

 植田総裁は、物価の基調的な動きが2%に届くという見通しになれば、金融緩和策は正常化の方向に向かうと述べています。そして「基調的な物価の見通しとは、半年先、1年先、1年半先の物価見通しが、かなり強い2%前後になり、しかも、それについての見通しの確度が高まったと認識できるようなものと漠然と考えている」と述べています。

 つまり、今年度の物価見通しが2%近くに引き上げられても、2024年度、2025年度に2%近くを維持できなければ、金融緩和の正常化は遠いということになります。

 現状の相場エネルギーでは、今週は24日(月)、25日(火)、26日(水)は動きづらく、相場が動くのは27日(木)午後9時半(日本時間、以下いずれも同じ)の米国1-3月期GDP(国内総生産)発表からかもしれません。

 28日(金)午前8時半には、日本の全国CPIの先行指標となる4月東京都区部CPIが発表されます。正午前後には日銀の決定発表。午後3時半には植田総裁の記者会見があります。

 海外市場では、午後6時にユーロ圏1-3月期GDP(国内総生産)が発表されます。5月4日のECB(欧州中央銀行)理事会で、4会合連続の0.50%の利上げへの期待からユーロ高が進んでいます。GDPが堅調であれば、ECBが再び0.50%利上げに踏み切る可能性が高まります。一方で弱含みとなれば、利上げ幅を縮小する見込みが強まるため、意識を向けたいです。

 そしてこの日午後9時半にはFRBが注目する物価指標の一つである米国3月個人消費支出(PCEコアデフレーター)が発表されます。

 このように28日(木)夜~29日(金)夜に相場が活況となる可能性があります。また、それまでに動いた相場の方向は、重要イベントの前のポジション調整などによるだましかもしれません。注意が必要です。

4月27日  午後9時半 米国1-3月期GDP
   28日  午前8時半 4月東京都区部CPI
      正午前後 日銀の金融政策決定会合の結果公表
      午後3時半 植田総裁の記者会見
      午後6時 ユーロ圏1-3月期GDP
      午後9時半 米国3月個人消費支出(PCEコアデフレーター)

二つ目のヤマ場:米FOMC(5月4、5日)

 4月27日(木)夜~28日(金)夜にかけてひと相場があった後、5月3日(水)の米FOMCの結果公表、5月4日(木)のECB理事会、5月5日(金)の米4月雇用統計の公表が控えています。

 日本の時間帯では5月4日早朝~5日夜にかけてとなります。

5月4日  午前3時   FOMC結果発表
      午前3時半 パウエル議長の記者会見
      午後9時15分 ECB理事会政策金利発表
      午後9時45分 ラガルド総裁記者会見
5月5日  午後9時半 4月米雇用統計

 日本はゴールデン・ウイーク中ですが、マーケットは活況となっている可能性があるため目が離せません。

 5月のFOMCでは0.25%の利上げがほぼ確実となり、相場でも既に織り込まれています。マーケットの関心は6月のFOMC会合以降も利上げが続くのかどうかという点です。

 FRBのタカ派は6月会合でも0.25%の利上げをするとの見方を示していますが、今回5月会合では3カ月に1回のFOMC委員の金利見通しの発表はありません。そのため、FOMC後の声明文やFRBのパウエル議長の記者会見で、今後の金利動向を判断することになります。

 米国の物価上昇が鈍化傾向にあるとはいえ、FRBが現状の物価水準から5月の利上げを最後に利上げ打ち止めを示唆するとは思えません。ただ、6月以降も利上げがあるのかどうか、様子見の期間を何カ月か置くのか、様子見期間後に再利上げもあり得るのかどうか、5月のFOMCを注視したいです。

 FRBが6月の利上げを示唆するなどタカ派的姿勢であれば、為替はドル高に反応し、逆に、6月に様子見の可能性を少しでも匂わせたらドル安に反応することが予想されます。

 年内の利下げについては、FRBは否定すると予想されます。しかし、Fedウオッチでは秋口以降、年末に向けた利下げ確率はあまり変わっていない状況となっています。FRBの見方とマーケットの見方とのギャップは開いたままです。

 5月のFOMCが終わった後にこのギャップが縮まるのかどうか注目です。FRBが少しでもハト派的な姿勢をちらつかせると、マーケットは一気に金利が下がり、ドル安に反応することが予想されます。

 悩ましいのは、FRBも物価や景気動向の判断がつき難いため、今後の政策については「データ次第」と総括されることです。この場合は、相場も動きづらく、FOMC前のように市場のエネルギーが乏しくなるかもしれません。FOMC後の最初の重要データは5月5日に4月の米雇用統計が発表されます。市場が活況となるのかどうか注目です。

 5月4日のECB理事会では0.50%の利上げがあるとの見込みが優勢です。ほぼマーケットにも織り込まれています。ただ、注意が必要なのは、理事会開催前の2日にユーロ圏の4月CPIの発表があることです。CPIの上昇率が弱いと利上げ幅縮小の思惑が高まる可能性があります。

 ECBも今後の利上げペースが焦点になります。ECB内では今後も0.50%の利上げが必要とのタカ派意見もあります。しかし、ラガルド総裁はタカ派姿勢を示しながらも慎重な言い回しになると予想されます。従って、ECB理事会後は材料出尽くしのユーロ売りに注意する必要がありそうです。

 ユーロは、1ユーロ=148円台に上昇し、2014年以来の円安となっていますが、高値圏の水準にあるだけに利食い意識が強まりそうです。対ドルでの円安は対ユーロでの円安に支えられていた面もあります。そのため、円が対ユーロで円高に調整が進めば、対ドルでも円高要因になる可能性が高い点に留意する必要があります。