コロナ禍後の財政金融策がはらむ超インフレ懸念

 このように1桁台のインフレは庶民の生活を直撃するが、一定レベルを超えるインフレは債権債務を無意味なものにし、資産家を直撃する。そうした事態に陥らないために、どうすればいいか。例えば円やドルなど法定通貨の価値の下落に備えるのであれば、固定金利で借金することが効果的だ。

 米著名投資家ウォーレン・バフェット氏が日本株に追加投資をするに際し、円債で資金調達をしたことは記憶に新しいが、これは日本企業のリスクは取りたいが、日本円のリスクは取りたくないということだろう。では、残念ながら借金のない資産家の場合はどうすれば良いだろうか。

 お勧めしたいのは前述のジョーンズ氏のやり方だ。ジョーンズ氏は2020年5月、FRBの無制限緩和を「グレート・マネタリー・インフレーション」だとし、資産の数パーセントをBTC(ビットコイン)に振り向けるとした。

 これならば、仮にBTCが無価値となっても、最大損失は数%だ。加えてインフレに対する伝統的なヘッジならば金にすればよいという意見に対し、ジョーンズ氏は「レースに勝つには最速の馬に乗れ」と表現した。

 前述の3月のパフォーマンスを見ても分かるように、金とBTCとでは価格変動が全く異なる。ヘッジ資産として金を選ぶのと同様の効果を得るのにボラティリティ(価格変動の度合い)が高いBTCの方がずっと少額で済み資金効率が良い。

 例えば資産の5%、BTCに振り向ければ、最大損失は5%だが、もしBTCの価格が2倍になればポートフォリオ全体に対し5%の益となる。これと同じパフォーマンスを金で得ようとすると、資産のかなりの部分を金に振り向ける必要があるだろう。

 そう簡単に2倍になるのかといえば、BTCは3月半ばから1カ月で1.5倍以上に値上がりしている。

BTCなしとBTCを1%加えたポートフォリオのパフォーマンス比較

(出典:Bloomberg「Bitcoin May Replace Some Bonds in Portfolios as Debasement Hedge」)

 Bloombergが米株60%・米債40%の伝統的ポートフォリオに対し、米株60%・米債39%・BTC1%とした分散ポートフォリオを2015年からシミュレーションを行ったところ、年間リターンが6.56%から7.38%に上昇するとの試算を出している。

 コロナ禍後、中央銀行が財政支出を支える事実上のマネタイゼーション(政府債務の貨幣化)のリスクが世界中で高まる中、米国投資家の間で2020~2021年に流行したBTCをポートフォリオに少額加える動きが世界的に広がる可能性があると考える。

 終戦直後の日本のケースは極端な例だし、私が知る限り米国ではハイパー・インフレは発生していない。FRB(連邦準備制度理事会)がかたくなに利下げを行わない方針を貫いているのは、中途半端な時点で景気に配慮して利下げに移行すると、後に大変な目に合うという教訓からだ。

 非常に理性的な判断だ。しかし、翻って見ると、人間社会が将来に備えて目先の苦難に耐え忍ぶ選択をしてきたかというと甚だ疑問だ。

 もっと踏み込んで言えば、財政支出を増税より増刷により賄う誘惑に、各国政府が勝てなくなってきている可能性がある。

 すなわち、第1次大戦後のドイツや第2次大戦直後の日本、そして1980年代の中南米の記憶が残っている間は、中央銀行が紙幣を増刷して政府に財政資金を提供するいわゆるマネタイゼーションは禁じ手とされていたが、そうした記憶が薄れるにつれ世界は危険な方向に進んでいるかもしれない。特に2020年のコロナ危機後の財政金融政策は、このリスクを高めてしまっている。

 現代のFRB関係者は1970年代当時のFRBが期待インフレを引き下げる前に利下げしたことを大失敗とみなすが、当時のFRB関係者からすれば市場から無制限に国債を買い入れた現代のFRBの方が常識外れに映るだろう。

分散投資でビットコイン広がる可能性、リスクから考える運用を

 議論として、そうしたハイパー(もしくはそれに準ずる)インフレリスクの有無を論じるのは結構だし、トレードとしていずれかのリスクに賭けるのもありだと考える。

 しかし資産全体の運用をするにあたっては、リスクの有無を1か0かで判断するのではなく、想定できるリスクを洗い出し、その出現可能性に応じて手当てする、リスクベースアプローチ的な考え方をお勧めする。

 リスクベースアプローチとはリスクの大きさに応じて対策を講じるという考え方で、具体的にはリスクの発生可能性と発生した場合の影響を加味してリスクの大きさを評価し、低減策を講じる。

 例えば、本件では、資産が大きく目減りするような影響の大きいインフレが到来するリスクが、1%あると考えるならば資産の1%を、5%あると考えるならば資産の5%をBTCに振り分けてみるということだ。

 最後に、分散投資にBTCを加える動きが進むと考えるもう一つの理由に急速に進む米ドル離れがある。その点については、別の機会に論じてみたい。