著名投資家ビットコイン購入相次ぐ、超インフレリスク回避狙う

 2020年3月の新型コロナウイルス感染拡大によるショックに対抗するために、米政府とFRB(連邦準備制度理事会)は史上最大の財政支出と史上最大の金融緩和、すなわちドルを刷って米国民に配るというオペレーションを行った。

 当時はやむを得ない対応だったのかもしれないが、ヘッジファンド運用会社ルネッサンス・テクノロジーズや米資産家のポール・チューダー・ジョーンズ氏、スタンリー・ドラッケンミラー氏といったレジェンド投資家らの間でインフレリスクのヘッジとしてBTC(ビットコイン)を購入する動きが出始めた。

 2020年末から2021年初頭にかけてこの動きが加速、BTCは大きく上昇した。

 しかしFRBが2021年11月に米国債やMBS(住宅ローン担保証券)を購入してきた量的緩和の縮小(テーパリング)、すなわち金融政策の正常化にかじを切るとBTCはピークアウトする。インフレを回避する必要性が低下したからだ。

 この点、世間では少し誤解がある。2022年に米国のインフレが高止まりしていたのに、BTCが低迷したことで、一部でBTCはインフレヘッジにはならなかったという見方が広がった。

 しかし、ジョーンズ氏やドラッケンミラー氏らがBTCによるヘッジで守ろうとしていたのは年率7%程度のインフレに対する生活防衛ではない。ドル発行の乱発による価値の減価、すなわち10%や20%に上るインフレ(場合によっては100%にも及ぶハイパー・インフレ)からの資産防衛だ。

 実際、チューダー氏は「グレート・マネタリー・インフレーション」に対してBTCを資産の数%保有するとしている。そして2021年11月にインフレが10%を超える前にFRBが金融引き締めに転じたことでBTCへのヘッジニーズが減ったわけだ。

 そして、FRBが2022年12月のFOMCで利上げ幅を0.75%から0.50%に縮小する見込みになると、BTCは下げ止まった。今年2月のFOMCで利上げ幅がさらに縮小し、0.25%の見通しになると、BTCは反発を始めた。そして、3月の金融危機で利下げ時期が前倒しになるとの見方からBTCはさらに大きく上昇した。

 しかし、今回の金融危機を経て、再びFRBが利下げに踏み切れば、インフレが10%を超える(3)のリスクが再浮上し、再びヘッジニーズが高まる可能性がある。

終戦直後日本のハイパー・インフレで資産家没落

 ここまで米国が金融緩和、すなわち利下げに動けば、インフレリスクが高まり、BTCに人気が出る経緯と仕組みをお話ししてきた。以下では、そうしたインフレ下で投資家の皆さんにどのような影響が出て、それをどのように防ぐべきかお話ししたい。

 少し極端な例を挙げさせてほしい。1946年に日本でハイパー・インフレが発生したことをご存じの方は多いと思う。その際にどうなったか? 結局、誰が損をしたのか。究極的には誰があの膨大な第2次世界大戦の戦費を負担したのかご存じだろうか?

 太平洋戦争末期における日本政府の債務残高はGNP(国民総生産)比で204%だった1。終戦直後のモノ不足と貨幣乱発によるインフレに対し、幣原政権は1946年2月緊急経済対策として「新円切替」という実質的な預金封鎖(最低限の生活費程度のみ引き出し可)と財産税(1回限り財産の25~90%)を実施2した。

 さらに1949年までに1934~1936年卸売物価ベースでみると1949年までに約220倍、1945年ベースでみても約70倍というハイパー・インフレが発生3した。その結果、1949年の政府債務のGNP比は19%に激減した。

 この預金封鎖とハイパー・インフレの組み合わせは意図したものか偶然だったかは不明だが、結果的に膨大な戦費はハイパー・インフレによる預金と政府債務の実質的相殺によって賄われた。戦前の資産家の多くが没落した。ドラマなどで終戦直後に資産家が着物を農村に売りに行くシーンの謎が分かる話だ。

出典:日経BizGate 日本政府債務、深刻度は大戦末期並み 岡崎 哲二氏
2 出典:日本銀行百年史(第5巻)
3 出典:日本銀行 金融研究2012.1経済戦後ハイパー・インフレと中央銀行 伊藤正直