李強首相「ボトムラインをなんとしても死守」

 国家統計局を含めた中国の経済・金融当局の欧米発の金融不安に対する態度を見極める上で参考になると思われる公式見解をいくつか見ていきましょう。

国家統計局・付凌暉報道官 4月18日の記者会見

「国際環境は依然として複雑かつ厳しく、外需の伸びにはなお不透明感があり、内需の制約や不足も依然として存在する」

中国人民銀行金融政策委員会第1四半期会議の備忘録、4月7日

「足元、国際経済の伸びは鈍化し、インフレは高止まりしている。地政学を巡る衝突は続き、先進国の中央銀行による金融引き締め策による影響も顕著に出ている。国際金融市場のボラティリティも増している。国内経済には回復の傾向が見られるが、回復に向けた基礎はなお強固ではない」

国務院参与、財政部元副部長・朱光耀 3月18日の講演

「国際金融市場は厳しい混乱に見舞われており、新たな金融危機を招く可能性は十分にある」

国務院総理・李強 3月30日 ボーアオフォーラムでの基調講演

「我々は重大なリスクを有効に予防、緩和しようとしている。特に、我が国の金融市場が全体的に穏健性を保持し、システミックリスクを引き起こさないというボトムラインをなんとしても死守しようとしている」

 元財政部副部長で、昨今の政策立案にも影響力を持つ朱光耀氏が3月18日に指摘しているように、当初、事態の展開次第では、一連の金融不安が新たな金融危機を引き起こすというシナリオを中国政府が描いていた経緯が読み取れます。と同時に、先月から首相を務める李強氏が主張するように、中国政府は、金融市場でシステミックリスクを引き起こさないことをボトムライン、すなわちあらゆる対策を駆使して死守するラインに据えている現状が見て取れます。行間から、欧米発の金融不安は中国の経済情勢、金融市場にも波及し得るという認識が垣間見れます。

 統計局、中国人民銀行金融政策委員会の見解も参考にしつつ、中国政府の欧米発の金融リスクに対する見解は以下の3点に集約できると思います。

(1)足元の金融不安は中国経済に影響を与え得る外部要素の一つであること
(2)金融不安は確かにリスク要因で、国内金融市場、投資家への心理的、実質的影響は軽視できないが、足元は比較的落ち着いており、中国経済への悪影響は限定的であること
(3)金融不安が世界経済の下振れ圧力となり、それが中国経済に跳ね返ってくるリスクは警戒すべきと考えていること