欧米発の金融不安を警戒しつつ静観。1-3月GDPは4.5%増
「中国は欧米発の金融不安をどう見てるんですかね?」
最近、国内外の機関投資家からしばしば聞かれる問いです。率直に言うと、聞かれるたびに、「う~ん、どうなんだろうな」と考え込んでしまう自分がいます。
米国でシリコンバレー銀行やシグネチャー銀行が破綻したり、欧州でクレディ・スイス・グループがUBSに買収されたり、「銀行破綻」、「金融不安」といった言葉に代表される国際経済・金融情勢が中国で報道されていないわけではありません。政府、市場関係者、経済メディアなどが、「先行き不透明」、「懸念事項」といった観点で、警戒しながら情勢の推移を観察しています。資産運用に積極的な中国国民も、海外で起きていることが中国経済にどう波及するのかを人並み以上にウオッチしていると思います。
一方で、一連の金融不安が中国にもたらす影響については、過剰反応しない、過度に不安をあおらない、警戒しつつも静観する、という空気感が充満しているように見受けられます。
実際、中国国家統計局が4月18日、2023年1-3月期のGDP(国内総生産)実質成長率を発表しましたが、前年同期比4.5%増と市場予想(4.0%)を上回りました。新型コロナウイルスの感染拡大を徹底的に抑え込もうとする「ゼロコロナ」策解除を受けて、中国経済が回復基調にあるのは間違いないと言えるでしょう。
李強首相「ボトムラインをなんとしても死守」
国家統計局を含めた中国の経済・金融当局の欧米発の金融不安に対する態度を見極める上で参考になると思われる公式見解をいくつか見ていきましょう。
国家統計局・付凌暉報道官 4月18日の記者会見
「国際環境は依然として複雑かつ厳しく、外需の伸びにはなお不透明感があり、内需の制約や不足も依然として存在する」
中国人民銀行金融政策委員会第1四半期会議の備忘録、4月7日
「足元、国際経済の伸びは鈍化し、インフレは高止まりしている。地政学を巡る衝突は続き、先進国の中央銀行による金融引き締め策による影響も顕著に出ている。国際金融市場のボラティリティも増している。国内経済には回復の傾向が見られるが、回復に向けた基礎はなお強固ではない」
国務院参与、財政部元副部長・朱光耀 3月18日の講演
「国際金融市場は厳しい混乱に見舞われており、新たな金融危機を招く可能性は十分にある」
国務院総理・李強 3月30日 ボーアオフォーラムでの基調講演
「我々は重大なリスクを有効に予防、緩和しようとしている。特に、我が国の金融市場が全体的に穏健性を保持し、システミックリスクを引き起こさないというボトムラインをなんとしても死守しようとしている」
元財政部副部長で、昨今の政策立案にも影響力を持つ朱光耀氏が3月18日に指摘しているように、当初、事態の展開次第では、一連の金融不安が新たな金融危機を引き起こすというシナリオを中国政府が描いていた経緯が読み取れます。と同時に、先月から首相を務める李強氏が主張するように、中国政府は、金融市場でシステミックリスクを引き起こさないことをボトムライン、すなわちあらゆる対策を駆使して死守するラインに据えている現状が見て取れます。行間から、欧米発の金融不安は中国の経済情勢、金融市場にも波及し得るという認識が垣間見れます。
統計局、中国人民銀行金融政策委員会の見解も参考にしつつ、中国政府の欧米発の金融リスクに対する見解は以下の3点に集約できると思います。
(1)足元の金融不安は中国経済に影響を与え得る外部要素の一つであること
(2)金融不安は確かにリスク要因で、国内金融市場、投資家への心理的、実質的影響は軽視できないが、足元は比較的落ち着いており、中国経済への悪影響は限定的であること
(3)金融不安が世界経済の下振れ圧力となり、それが中国経済に跳ね返ってくるリスクは警戒すべきと考えていること
中国金融政策のキーマン「リスクはコントロール可能」
中国金融政策のキーマンが易鋼・中国人民銀行総裁です。中国最高学府の一つである北京大学の経済学部を卒業し、イリノイ大学で経済学博士を取得しています。経済の専門家、学者出身の中国金融政策統括者です。習近平第2次政権(2018~2023年)で人民銀行総裁を務めた易氏ですが、今年3月の全人代前後に多くの閣僚級人事が変わる中、易氏は総裁を続投。それだけ習近平総書記を含めた指導部の信頼が厚いということだと思います。
そんな易総裁ですが、このほど米ワシントンD.C.で開催された主要7カ国(G7)と20カ国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議に出席した際、日本、オーストリア、スイス、米国、ザンビア、スリランカ、エチオピア、パキスタンの中銀総裁あるいは財務相と会談をし、昨今の金融不安への対応や世界経済について意見交換をしています。金融不安が世界経済への足かせとなり、それが中国経済の成長を押し下げるリスクを警戒する中銀のトップとして、各国のカウンターパートと現状認識を共有し、政策を協調していく必要性を感じているのでしょう。
また、G20会議では、「中国の金融市場は全体的に安定している。リスクは全体的にコントロール可能である。銀行など金融機関の経営状況も良好で、一部中小金融機関も改革を通じてリスクの緩和を進めている」とした上で、「中国経済は現在安定的に回復しており、インフレ率も低い。不動産市場にも前向きな変化が見られる。今年のGDP成長率は5%前後になると予測している」という見通しを示しました。
IMF(国際通貨基金)は4月11日、一連の金融不安や金融市場の引き締めは世界経済の下振れリスクになるという見通しから、2023年の世界経済成長率見通しを2.8%増に下方修正しています。中国政府が警戒するように「外需の伸び鈍化」は中国経済にとっても下振れ圧力と化し、今年5.0%前後に設定している年間目標を達成する上でのリスク要因になるということでしょう。中国政府は「コロナフリー」という新常態下において、引き続き小刻みな金融緩和や大胆な財政政策を通じて景気を下支えしていくものと思われます。
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