民主的な国の供給が、長期減少傾向

 ウクライナ危機が沈静化するまで、鶏卵価格は優等生に戻れない可能性があると、書きました。同危機を沈静化させることは困難であるため、同危機をきっかけとして顕在化した非西側の主要な農産物供給国からの「出し渋り(時限的なものや示唆を含む)」が今後も続くことは、想像に難くありません。

 ロシアは、黒海に面するウクライナの主要な港からの穀物輸出再開に難色を示し続けています。また、インドは2022年5月、国内の需給バランスと価格を安定化させるため、主要穀物の一つである小麦の輸出停止を宣言しました。

 こうした動きは、戦時対応や自国の安全保障のため、などといわれていますが、実態としては「非西側」による「西側」への「出し渋り」であると考えられます。「非西側」による「出し渋り」への警戒感が、穀物相場全般を高止まりさせている一因になっていると、考えられます。

 3月、ヨーテボリ大学(スウェーデン)のV-Dem研究所は、「自由民主主義指数」の最新版(2022年版)を公表しました。この指数は、行政の抑制と均衡、市民の自由の尊重、法の支配、立法府と司法の独立性など、自由度や民主度をはかる複数の観点から計算され、0と1の間で決定し、0に近ければ近いほど、非民主的な傾向が強い、1に近ければ近いほど、民主的な傾向が強いことを示します。

図:民主的・非民主的な傾向が特に強い国のトウモロコシと大豆の生産シェア

出所:V-Dem研究所のデータをもとに筆者作成

 上記の図は、同指数が「0.7以上の民主的な傾向が特に強い国」と「0.3以下の非民主的な傾向が特に強い国」における、「トウモロコシ」と「大豆」の生産量(合計)のシェアの推移を示しています。2011年ごろから、「0.7以上の民主的な傾向が特に強い国」のこれらの穀物の生産シェアが目立って低下していることがわかります。

 シェア低下の要因の一つに、「米国(0.74)」「EU(0.72、25カ国平均)」「カナダ(0.74)」などといった、民主的な傾向が特に強い国・地域の「トウモロコシ」「大豆」の生産量が頭打ちに状態にあることが挙げられます(2015年ごろがピーク)。

 また、以前の「震災の年を起点に行う、コモディティ市場分析」で述べたとおり、そもそも、2011年ごろから民主的な傾向がある国の数が減少している点も、一因に挙げられます。民主的な傾向が特に強い国・地域の生産シェア低下は、非民主的な傾向が特に強い国・地域の生産シェアを上昇させます。