インフレ長期化懸念で一時1ドル=133円台後半

 OPEC*とロシアなどの非加盟国で構成するOPECプラス**は2日、原油を日量200万バレル減産する現行の方針を維持すると発表しました。これに加えてサウジアラビアなど産油国8カ国は5月から年末にかけて自主的に日量116万バレルの減産に踏み切ると明らかにしました。

 これを受けて、2日のニューヨーク原油市場で国際的な原油取引の指標となるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物価格は一時2カ月ぶりとなる1バレル=81ドル台に上昇しました。

 原油価格は3月に一時1バレル=64ドル台と、世界経済減速による需要減少から1年3カ月ぶりの安値を付けました。こうした原油安を受けて、米国の反発を買ってでも、原油相場を上向かせる追加減産の決定に至ったと思われます。

 3日の外国為替市場のドル相場は、原油高を受けて、一時1ドル=133円台後半まで上昇しました。原油の追加減産で価格上昇圧力がかかることで、インフレ長期化への懸念が広まったからです。米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)がインフレ抑制のために利上げを続けるとの思惑によって、ドル買いが優勢となりました。

*OPEC…石油輸出国機構。「オペック」と読み、Organization of the Petroleum Exporting Countriesの略。中東、中南米、アフリカの産油国が欧米の国際石油資本(メジャーズ)に対抗し、自らの利益を擁護するため1960年に設立。共同で生産量を調整し価格維持に当たります。当初加盟国はイラン、イラク、クウェート、サウジアラビア、ベネズエラの5カ国で、現在13カ国。本部はオーストリア・ウィーン。定例総会は各国のエネルギー担当相が集まり年2回開催、臨時総会は加盟国の要請があれば開かれます。総会の決定は石油価格動向に加え、金融、株式、為替市場にも影響するため、注意が必要です。原油収入が主な経済基盤の産油国にとって、財政収支が均衡する原油価格は非常に重要です。IMF(国際通貨基金)の推計によると、2023年の均衡価格はサウジアラビアが1バレル=66.8ドル、UAEは65.8ドル。今回、追加減産を表明した8カ国のうち、主な7カ国平均で84.8ドルです。この水準を下回れば、産油国にとって財政が悪化し望ましくないことになります。

**OPECプラス…OPEC加盟国と、ロシアなど非加盟国が2016年12月に設立で合意。産油国がシェア拡大のため増産を競い、石油価格の急落を招いたことが設立の背景です。より多くの産油国で石油価格安定を目指す枠組みですが、事実上、サウジアラビアとロシアが主導しています。

3月米製造業景況感は5カ月連続の「不況」

 しかし、3日のドル買いは長続きしませんでした。この日、公表された米3月ISM(米サプライマネジメント協会)製造業景況指数が市場予想以上に低水準となったからです。46.3と前月から下落し、好不況の節目である50も5カ月連続で下回りました。

 この結果、景気減速への懸念が強まり、FRBによる利上げ打ち止めと利下げが前倒しされるのではないかとの見方からドルは売られました。1ドル=132円台前半に下落しました。

 一日の時間帯でドル買いからドル売りに動いたのは、今後の為替の動きを示唆しているのかもしれません。3日のドル/円の動きは、市場が景気後退懸念の方を重要視していることの反映のようです。

 原油価格上昇によるインフレ加速よりも、それに対する利上げによってさらなる景気減速を恐れる気持ちの方が強いのかもしれません。

 日々の経済指標の結果を反映し、速報性があることから市場で注目されているアトランタ連邦準備銀行のGDP(国内総生産)ナウは、4月3日時点の1-3月期GDP予測を前週+2.5%から+1.7%に下方修正しました。3月23日時点の予測では+3.5%だったのが、10日ほどで半分の成長力になりました。

 雇用指標の悪化から米長期金利は4日、3.3%台に低下し、同日のニューヨーク外国為替市場のドル相場は131円台半ばまでドル安円高が進みました。

 2月の米雇用動向調査(JOLTS)がこの日発表され、非農業部門の求人件数が2021年5月以来約2年ぶりに1,000万件を割り込んだことから(993万1,000人、前月比▲63万2,000人)、労働需要の冷え込みが懸念され、金利は低下し、ドルは売られました。

 雇用の弱さは賃金インフレを弱めることにつながり、今後の利上げ打ち止めや利下げ開始時期を織り込みに行く相場になることが予想されます。この求人数の結果は3月の金融不安の影響は反映されていません。今後さらに悪化する心配もあります。

7日の米雇用統計の発表後、130円割れになるか注目

 この雇用動向調査の結果を受けて、7日に公表される3月の米雇用統計の注目度がますます高まってきました。それに先立つ5日には、給与計算代行サービス大手ADP社による3月の雇用報告と、3月のISM非製造業景気指数が発表されます。

 ADP雇用報告は3月の金融不安を反映して弱い結果になるのかどうか、7日の米雇用統計の先行指標として押さえておきたいです。

 また、3月ISM非製造業景況指数は、非製造業は製造業よりも強いといわれていますが、どの程度強い結果になるのか見極めたいです。

 ドル相場は、3月24日に1ドル=130円を割れた後、月末に向けて上昇し、133円台後半のドル高円安となりました。

 しかし、4月に入り、132円を下回り、ドル安円高で推移しています。米雇用統計の発表を受けて、再び130円を割る動きになるのかどうか注目したいと思います。