サイクル投資のゆとり度

 株式強気派からは、

・金融不安の割に株価は底堅くしっかりしている
・金利の先行き見通しは大幅に下がっている
・銀行支援の流動性供給は量的緩和になっている

などなど、反論もあるでしょう。

 しかし、2022年のサマーラリー、その調整を終えた後の10~11月秋相場には、インフレはもう大丈夫、景気は底浅、株は割安で買い場…など、1月ラリーから2月に入るとノーランディング論と、株式相場は言いたい放題が性分です。

 強気派の論拠も、

・金利が下がっても、金融不安後は銀行の貸出基準が厳しくなり、金融引き締め効果は強まる
・流動性供給はこのマイナス作用を何とか埋め合わせるもので、プラス効果が出る段階ではない
・底堅い株価は金利低下のサポートとリスクオフを気迷う段階のもので、遠からず銀行貸出厳格化と個別決算、ファンドの経営問題などをきっかけに下振れ余地を残している

と、明暗あっさり転じ得ることを留意します。

 何も事態を悲観しているわけではありません。ただ下降サイクルの終息には、インフレ低下後の十分な金融緩和を待つ必要があるというだけです。マクロの逆風下で、金融不安まで重なる場面に、あえてリスク投資に打って出ることが割に合うとは考えません。そうであればこそ、プロはまず、流動性確保、安全への逃避に走るのです。

 もちろん、安全への逃避が相場に過剰反応をもたらし、短期投資家に揺り返しのチャンスをもたらす面はあります。何かしないと気が済まない投資家には、(1)短期投資(2)長期の時間分散投資、より確実にじっくり中長期投資派なら、次の金融緩和期の(3)株式金融相場まで待機、という従来からの三つのスタンスはそれぞれ「あり」でしょう。

 特に(3)金融相場に向けて、昨秋にドル資金を円転するか、ドル資金のまま米国債などでイールド・ハンティングしていれば、今回の金融不安に守りになると同時に、下降サイクルが速まると、円高でのドル転、債券価格上昇の利益確定という攻めにもなっています。いつでも株式一本槍ではなく、サイクル投資で、株式、金利・債券、為替、さらに商品を含むローテーションは、基本であると同時に王道です。

 サイクル投資には、「強気相場は、悲観の中で生まれ、懐疑の中で育ち、楽観の中で成熟し、陶酔の中で消えていく」という名格言があります。金融引き締め途上で景気悪化にも至っていない現状は、悲観以前でしょう。強気相場が育つ懐疑段階でも、十分に相場妙味は大きいと言えます。サイクル投資の視座から、クールにゆとりを持って、あえて今「危機は買い場」かどうかを考えてみて下さい。

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