金利引き上げか据え置きか、米銀破綻で揺れるFRB

 先週後半のドル/円は、経営不安が懸念されたファースト・リパブリック銀行に対して米大手銀行11行が支援するとの報道によって一時ドル買い優勢となり、16日の外国為替市場で1ドル=133円台に上昇しました。

 しかし、米金融システムへの不安はくすぶり、17日には、経営破綻した米シリコンバレー銀行の持ち株会社が日本の民事再生法に当たる米連邦破産法11条の適用申請をしたと発表したほか、大手地銀株が再び下落しました。また、3月ミシガン大学消費者信頼感指数で1年先の期待インフレ率が3.8%となり2月(4.1%)から低下したことも重なって、ドルは131円台半ばまで下落しました。

 週末19日には、UBSによるクレディ・スイスの買収がまとまったほか、日米欧の6中央銀行が協調してドル資金の供給を拡充すると公表しました。こうした動きを受けて、週明けのドル相場は132円台に上昇しました。

 ただ、その後は金融システム不安を巡る警戒感は根強く、ドルの上値を抑えました。さらに米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)が21~22日に開くFOMC(米連邦公開市場委員会)を控え、米国の金融政策に対する様子見から、133円台に乗せるドル高の勢いはなく、132円台で推移しています。

 今回のFOMCでの利上げ予想については、市場では0.25%を見込むものが主流となっています。一方、金利を引き上げずに据え置くとの見方も残っており、FRBは物価安定よりも金融安定を優先するとみる向きも依然多い状況です。

 しかし、据え置きとなると、市場の金融不安を沈静化するよりも、火種はまだあるのではないかと、かえって疑心暗鬼にさせる恐れもあります。そのため、FOMCはそうした選択を避ける可能性もあります。

 据え置くのであれば、据え置きは一時的な措置として、3月会合の次の5月のFOMC以降は利上げ継続に戻ると示唆するシナリオも想定されます。

2023年末の米金利到達見通しにも注目を!

 一方で、金融混乱を受けて、FRBが利上げから利下げに転ずる時期を前倒しするのではないかとの見方が高まってきました。FRBの金融政策への姿勢を判断するに当たって、今回のFOMCで発表される今後の金利見通しに注目です。FOMCでは3カ月に1度、先々の金利の到達水準を示していますが、昨年12月の予想では、2023年末に5.125%になると見込んでいました。そして2024年末は4.125%としていました。

 前回1月31日~2月1日のFOMCでは0.25%の利上げを決定し、政策金利は4.50~4.75%となりました。従って0.25%刻みの利上げだと、3月と5月に合わせて2回の利上げをすれば 5.0~5.25%となるため、5.125%に到達することになります。そして、2024年末の見通しは2023年末よりも1%低い水準ですから、0.25%刻みで4回の利下げが必要となります。

 もし、今回のFOMCで2023年末の金利見通しを5.125%から引き上げると、利上げは3月、5月の2回では済まず、6月以降のFOMCでも続く計算になります。また、3月にいったん利上げを見送っても、5月以降、利上げは再び続く見立てになります。

 逆に、5.125%から引き下げると、5月会合では利上げせず金利を据え置くとの見方が優勢になります。5%以下の場合は、年内に利下げが始まるのではないかとの予測が浮上してきます。

 FOMC後に開かれるFRBのパウエル議長の記者会見では、今後の利上げペースや利下げのタイミングについて、どのように説明するのか注目です。そして金融システムへの懸念に対して何と言うのかしっかり確認したいところです。

 この環境下、パウエル議長の言い回しは慎重になると思われますが、全般的にハト派的な内容となれば、為替市場はドル売りで反応するため注意が必要です。

 金融混乱は現状では各国政府などの対応でひとまず落ち着きました。一方、インフレ率は鈍化してきているとは言え、いまだ政策金利と比べると高い水準が続いています。

 そうした状況から、今回のFOMCでは、物価高抑制を優先し、0.25%の利上げと2023年末の金利見通しの現状維持(5.125%のまま)もしくは若干の低下が予想されます。ただ、金利見通しはFOMC各委員が判断する水準の中央値であるため、委員ごとのバラつきには注意が必要です。6%近くと見込む委員がいれば、一時的にドル高に反応するかもしれません。

 今回のFOMCで0.25%の利上げがあることはマーケットではほぼ織り込まれています。そのため、ドルはFOMCの結果発表後に一時的に買われても、その後は材料出尽くしによって、売られるかもしれません。据え置きの場合は、ドル売りが予想されますが、金利見通しに大きな変化がなければ、ドル売りは限定的かもしれません。

楽観的な上方修正のOECD経済見通し

 先進国で主に構成されるOECD(経済協力開発機構)は17日、今年の世界経済見通しを発表しました。中国経済の新型コロナウイルス禍からの再開などを織り込み、実質成長率を2.6%と前回昨年11月の見通し(2.2%)よりも0.4%上方修正しました。米国は0.5%から1.5%、ユーロ圏は0.5%から0.8%とそれぞれ引き上げました。金利上昇に伴う金融不安リスクにも言及していますが、やや楽観的な見立てかもしれません。

 市場では1月の経済指標が良好だったのは一過性であり、むしろ3月の金融騒動によって投資や消費が萎縮し、景気への悪影響が長引くのではないかと懸念されます。

SNS介した預金流出で銀行破綻、従来想定と違う新たな危機

 今月相次いだシリコンバレー銀行やクレディ・スイスの経営難は、2008年3月の米大手投資銀行ベアー・スターンズの経営危機から同年9月のリーマン・ブラザーズの破綻(リーマン・ショック)に至ったのと同様に世界的な金融危機に発展するのかどうか現時点では判断できません。

 各国中央銀行はリーマン・ショックの教訓を生かしてそれなりの対応策と覚悟ができています。しかし、信用不安ではなく流動性不安による新たなパターンの危機が発生しており、当局も金融不安を完全に封じ込められない可能性もあるため引き続き警戒する必要があります。

 米国のイエレン財務長官は21日、米国銀行協会のイベントで、預金保護の拡大検討を述べ、「状況は安定しつつある。米国の銀行は安定性を保っている」と説明しました。そして今回の金融不安は「リーマン・ショックとは大きく異なる」と述べ、当局は警戒を怠らないと強調しました。

 一方で16日の米連邦議会上院財政委員会の公聴会では、SNS(交流サイト)を介して預金流出が広まったことについて従来の規制で防ぐ難しさを指摘しています。そして経済危機などを想定して銀行の財務基盤の健全性を調べるストレステストについて、「ストレステストは今回問題になった流動性の確保に焦点を当てていない」とその限界を認めています。

 インフレが鈍化傾向にある中で、FRBの利上げ打ち止め時期が近づきつつあることに加えて、金融不安がくすぶり続けるのであれば、米長期金利は上がりにくくなり、ドルも上がりにくくなるのではないでしょうか。そしてFRBの利下げ機運が高まれば、ドルは一気に130円割れを目指すかもしれません。