パウエルFRB議長証言、黒田日銀総裁最後の決定会合、米雇用統計でドル高?

 先週のドル相場は、米国の10年債利回りが4%に高まると、1ドル=137円台に乗り、その後、金利が4%を割れると135円台に下落しました。ただ、相場は米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)の利上げが長期化するとの観測からドル高地合いとなっており、円高に大きく傾くことにはなりませんでした。

 今週はFRBのパウエル議長の米議会証言(3月7、8日)、日本銀行の黒田東彦総裁最後の金融政策決定会合(9、10日)、米雇用統計公表(10日)と日米それぞれの重要イベントが三つ相次いであります。

 パウエル議長から金融引き締めに積極的なタカ派発言が飛び出したり、日銀が金融緩和維持を決めたり、米雇用統計が強い雇用情勢を示す結果になったりすれば、米金利が再び4%に上昇しドル高が予想されます。ただ、想定外のサプライズにも注意する必要があります。

 まず、パウエル議長の議会証言は7日(火)に上院銀行委員会で行われました。翌8日(水)には下院金融サービス委員会で実施されます。

 7日の上院での証言では、パウエル議長は、「最新の経済データは予想より強く、金利の最終到達水準が従来想定より高くなる可能性が高いことを示唆」「経済データが全体として、より速い引き締めペースを正当化するのであれば、利上げペースを加速させる用意がある」と述べると、米長期金利の上昇とともにドル買いとなり、先週に続き再び137円台に乗せました。

 ただ、10年債利回りは、利上げ長期化による景気後退懸念からほぼ横ばいとなっています。8日の下院の証言はほぼ同じ内容となることが予想されるため、相場は今度はあまり反応しないかもしれません。

黒田総裁、2%下回る物価見通しを最後にどう評価する?

 3月9~10日の日銀の金融政策決定会合は黒田現体制にとって最後の会合となります。黒田現体制が次期総裁就任が見込まれる植田和男氏をトップとする新体制への置き土産として、YCC(イールドカーブコントロール:長短金利操作)の長期金利の許容変動幅を再拡大したり、撤廃を示唆したりするといった見方もあります。そうしたシナリオが起きる可能性はゼロではありません。

 しかし、それよりもむしろ、前日銀総裁である白川方明氏がIMF(国際通貨基金)季刊誌への寄稿で、黒田総裁の大規模金融緩和を「壮大な実験」と表現して批判したことに対し、黒田氏は反論するかのように、自身の政策の正当化を強調することが予想されます。

 ハッサクが注目したいのは、黒田氏が物価見通しについて最後にどのような考え方を示すのかという点です。3月3日に発表された東京都区部の2月CPI(消費者物価指数)の内、生鮮食品を除く総合指数の伸びは前年同月比3.3%の上昇となり、1月(4.3%)から1.0%下がりました。市場が予想した通りの結果でした。

 しかし、生鮮食品とエネルギーを除いた総合物価指数の伸びは1月(3.0%)よりも拡大し、3.2%になりました。2022年4月にマイナスからプラスに転じてから、上昇は11カ月連続です。帝国データバンクによると、今年3月に値上げ予定の食品は3,442品目、4月は5,000品目近くに上るとされており、物価上昇基調は続く見通しです。

 東京都区部CPIは全国の先行指標として注目されています。3月24日公表予定の全国の2月CPIも、生鮮食品とエネルギーを除いた総合物価指数が上昇基調となるのかどうか見定めたいです。

 日銀が1月に公表した展望リポートでは2023年度の物価見通しを前年度比1.6%の上昇と予測しています。生鮮食品とエネルギーを除いた総合物価指数が1年近く上昇基調にあります。今後も値上げが続く状況を受けて、黒田氏が2023年度の物価見通しをどのように評価するのか注意を向けたいと思います。

1ドル140円の円安ドル高に接近!?日銀政策修正への思惑がブレーキに

 3月10日の日銀政策決定会合の終了後、米国では同日、2月の米雇用統計が発表されます。前回1月の雇用統計では非農業部門雇用者数は前月から51万7千人増加し、市場予想(約19万人)を大きく上回りました。2月の雇用統計もサプライズには注意したいと思います。

 先週3 日に発表された2月ISM(米供給管理協会)非製造業景況指数は、米国の雇用市場が2 月も引き続きタイトな状況が続くことを示唆する内容でした。総合指数は前月からほぼ横ばいでしたが、雇用指数は1月の50.0から4.0 ポイントも改善して54.0となっています。

 これはこの1年ほどで最も高い水準で、FRB によるこの1 年間にわたる大幅な利上げが労働需給緩和に十分な効果を発揮していないと捉えることもできます。2月の雇用統計では非農業部門雇用者の前月比増加数は反動で大きく低下し、約20万人ほどにとどまると予想されています。

 一方で、前月比増加数がこの予想を上回れば、1月(51万7千人)から縮小しても労働需給の逼迫(ひっぱく)が緩和していないとみる見方も台頭してくるため注意が必要です。ドル高地合いを強めてくるかもしれません。

 また、1月の非農業部門雇用者数の改定値が速報値から大きく下方修正された場合は、米金利低下やドル安に大きく反応することも予想され、注意する必要があります。2月の金利上昇、ドル上昇は雇用統計から始まっているだけに、その反動は大きいかもしれません。

 パウエル議長の議会証言で、1ドル=137円台に乗せましたが、果たして今週10日の日銀の政策決定会合と米雇用統計の公表によって140円の円安ドル高に近づくのかどうか注目したいと思います。

 また、日本では日銀が4月の展望リポートで物価見通しを上方修正するのではないかとの観測が浮上しています。物価見通しが上方修正となれば、いずれ日銀は緩和政策の修正に動くとの思惑が強まり、円高に動くことが想定されます。

 日銀の政策修正への期待による円高リスクは根強く続くと見込まれ、このことがドルの頭を重たくし、円安に行きそうで行かない相場地合いになるのではないかとみています。

 ただ、日米金利差拡大を背景にドル売りポジションはコストがかかるため、日銀の政策修正がない限り、ドル売りになっても短期で終わる可能性が高いことには留意しなければなりません。

 市場では、FRBが21~22日に開くFOMC(連邦公開市場委員会)では、0.50%の利上げをするとの見方が強まってきたようです。パウエル議長の議会証言は利上げペース加速や利上げ長期化の可能性を示唆したことによって円安を後押しする要因となりました。

 ただ、10日公表の2月の米雇用統計、14日発表の2月の米国のCPIの内容次第では、FRBの利上げ幅に関する市場の見立ても動くことがあるため、これらの指標を見極めるまでは動きづらいかもしれません。