2月は円安ドル高進行、3月はFRBタカ派姿勢緩める可能性に注意

 2月は日本銀行の金融政策決定会合はありませんでしたが、日銀の次期総裁候補の人事への思惑や政策修正期待から、ドル相場は一時1ドル=130円を割れる局面もありました。しかし、政府が経済学者の植田和男氏を日銀総裁に起用すると伝わった直後の植田氏のインタビューや、日銀総裁候補に指名された植田氏への衆議院の所信聴取で金融緩和継続姿勢が確認されたことから円安が進みました。

 一方、米国では1月の物価高の勢いや経済指標が市場予想よりも強かったため、インフレが長期化する懸念や景気堅調が続くとの期待から利上げが長引くとの観測が優勢になりました。米長期金利が上昇したこともドル高に働きました。

 これらの指標を受けて、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)高官から3月のFOMC(連邦公開市場委員会)での0.5%利上げや今後も利上げ継続が必要だとするタカ派発言が相次いだこともドル高を後押ししました。

 3月は、2月のドル高の背景となった米景気の堅調、インフレ再燃や利上げ長期化への懸念を確認する月となりそうです。2月に発表された1月の米国の指標は、暖冬の影響や季節調整などの特殊要因が影響しているとの見方もあります。

 また、昨年の急速な利上げによる金利高が家計や企業へ及ぼす影響もじわじわと出てくることも予想されるため、2月の経済指標でも1月と同様の傾向が示されるのかどうか確認する必要があります。3月21~22日のFOMCでは、2月の経済指標次第ではFRBのタカ派姿勢に変化がみられる可能性もあり、注意する必要があります。

くすぶる日銀の政策修正期待、再燃するタイミングは?

 植田氏の所信聴取によって日銀の政策修正期待はいったん後退しましたが、どのようなタイミングで再燃するのかも注目です。

 植田氏は2月24日の衆院での所信聴取で、「金融緩和は適切。緩和を継続して経済を支え、企業が賃上げをできる環境を続ける必要がある」と表明しました。しかし、同時にYCC(イールドカーブコントロール:長短金利操作)の副作用やETF(上場投資信託)の大量買い入れの問題点にも言及しています。

 また、黒田東彦現総裁が主導してきた緩和策に対して、植田氏は「必要に応じて検証していきたい」と前向きな姿勢を示したことから、植田新体制が始まったときに、金融緩和継続の中でどのように副作用や問題点を検証していくのか、そのロードマップが材料として取り上げられやすくなります。

 そのため、「緩和継続」の要因だけで安心して円を売っていくのは注意する必要がありそうです。

 28日の参議院での所信聴取で副総裁候補の内田真一氏は緩和策の検証について、米欧の中央銀行が1年以上かけてレビューを行った事例が「一つの参考になる」と説明しました。物価高と副作用の環境が続けば「1年以上」は長過ぎるのでないかとの印象です。市場は催促してくるかもしれません。

物価目標2%下回るまで緩和修正の思惑続く、円安は一本調子に進まず

 物価の先行きについては、植田氏は「2023年度の半ばにかけて2%を下回る水準に低下していく」との見通しを述べました。また、2%の物価目標は「持続的・安定的に達成するには時間がかかる」と説明しました。

 従って、現状では2%目標を達成するための金融緩和は適切であり、緩和政策を維持するとなるのですが、果たして物価は2023年度半ば以降、2%を下回る水準に低下するのかどうかも焦点になってきます。

 日本の1月CPI(消費者物価指数)(生鮮食品を除く)は前年同月比4.2%の上昇となり、第2次石油危機の影響が残る1981年9月以来、41年4カ月ぶりの高い伸びとなりました。ただ、2月のCPIは政府の電気・ガスの負担軽減策により上昇率が鈍化する見通しとなっています。

 内閣府によると、軽減策によって1ポイントの物価抑制効果があると試算しており、今回の物価高局面は今年1月がピークとなる可能性が高いようです。一方で、今後も食品などの値上げが続くことや、サービスを中心に粘着性のある価格は下がりにくくなっています。

 2月25日付の日本経済新聞によると、大和総研がアトランタ連邦準備銀行の分析手法を参考にして、サービス価格などが中心で、いったん上がると下がりにくい特徴がある「粘着価格指数」を試算しているとのことです。試算では、2000年代の同指数は長くゼロ%近辺で推移しましたが、2022年11月に2%を超え、2023年1月は2.3%となりました。

 1992年12月(2.4%)以来、30年1カ月ぶりの水準となっているとのことです。これら粘着性物価指数が上昇傾向にあることや、今後も食品などの値上げが多く予定されていることを考慮すると、インフレ圧力はなお強い状況が続きそうです。日本の物価上昇率は10カ月連続で2%を超えている状況です。2%以下の水準に下がらない限り、日銀の政策修正への期待は根強く続きそうです。

 今年1月の日銀の展望リポートでは、2023年度の物価上昇率は1.6%(生鮮食品を除く)と見込んでおり、市場では低すぎるとの意見も多いようです。植田氏も2月24日時点で「2023年度の半ばにかけて2%を下回る水準に低下していく」との見通しを述べています。

 3月24日公表予定の2月CPI、4月21日公表予定の3月CPIを受けて、植田新体制の初会合となる4月27~28日の金融政策決定会合でどのような物価見通しを示すのか注目したいと思います。物価見通しが上方修正となれば、日銀への政策修正期待が強まることも予想されるため警戒する必要があります。

 また、3月9~10日の黒田総裁最後の政策決定会合では、黒田氏も何度となく主張しているようにさらなる政策変更はなく、現在の金融緩和政策継続との見方が多いです。しかし、新体制への布石となる政策修正を置き土産にする可能性もリスクシナリオとして頭の片隅に置いておく必要があるかもしれません。

 この3月の政策決定会合前の3日には、2月の東京都区部のCPIが公表予定となっています。東京都区部CPIは全国の先行指標として注目されており、1月の東京都区部CPI(生鮮食品を除く)は前年同月比4.3%の上昇と昨年12月(3.9%)から上昇率は拡大しています。

 2月の東京都区部CPIは市場予想では政府の電気・ガスの負担軽減策によって3.3%の上昇にとどまり、1月より低下すると見込まれています。市場も物価高の鈍化をある程度織り込んでいますが、どのような反応になるのか注目です。

 ドル/円は心理的節目である1ドル=135円を上抜きましたが、このまま135円~140円のレンジに入るとはみていません。急速な利上げによる米景気へのマイナス影響や、いったん後退した日銀政策修正への期待がくすぶっていることから、一本調子に円安に進むのは難しいのではないかとみています。