24日所信聴取、緩和維持でサプライズなしか

 先週発表された米国の1月CPI(消費者物価指数)は前年同月比6.4%上昇、PPI(卸売物価指数)は6.0%上昇、小売売上高は前月比3.0%上昇とそれぞれ市場予想を上回りました。インフレが長期化する懸念や景気堅調が続くとの期待から米長期金利が上昇し、ドル高円安の動きとなりました。

 また、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)高官からのタカ派発言が相次いだことから、政策金利の利上げが長引くとの観測が強まり、17日には心理的節目である1ドル=135円をあっさり突破しました。

 しかし、135円を抜けた達成感や、米国の連休前のポジション調整からドルは売られ、135円台のドル高円安にとどまることはできませんでした。

 ドル買いの勢いが続かなかったのは、今週24日午前に衆議院で予定されている日本銀行次期総裁候補の植田和男氏の所信聴取が控え、発言を見極めたい投資家の慎重姿勢が影響したとみられます。副総裁候補2人の所信聴取は24日午後に実施される予定です。参議院では27日に植田氏、28日に副総裁候補の聴取が行われます。

 先週は米国サイドの材料がメインであり、日銀材料はいったん後退しましたが、今週後半は、世界中の注目の的となっている植田氏の所信聴取によって騒々しい相場になるかもしれません。

 所信聴取とは日銀次期総裁候補の植田氏の考え方を国会で確認する機会です。市場は植田新体制で現在の緩和政策からの修正を見込んでおり、所信聴取で何らかのヒントを探ろうとしています。

 しかし、植田氏は10日の報道陣の取材に対し、「現在の日銀の政策は適切である。当面は金融緩和を続ける必要がある」と発言していることから、黒田体制と同じように金融緩和姿勢を現段階では維持することを正当化すると考えられます。

 そのため市場が知りたい政策変更の時期や具体的な政策について発言を控える可能性があります。

 ただ、国会では質疑も行われます。政策変更について具体的な説明はないかもしれませんが、YCC(イールドカーブコントロール:長短金利操作)やマイナス金利の効果と副作用に対する植田氏の認識について質問が出る可能性があります。その返答内容は今後の政策を見通すヒントになる可能性があります。

 また、植田氏は2022年7月の日本経済新聞の「経済教室」で、「長期化した異例の金融緩和枠組みの今後については、どこかで真剣な検討が必要」との考えを示しています。こうした過去の言説などを国会で質問された時には応えざるを得ず、学者として踏み込んだ内容を主張することもあるかもしれません。

 一方で、植田氏は日銀の審議委員として7年間の実務経験があることから、自身の発言がマーケットに与える影響は熟知していると思われます。植田氏は10日に報道陣の答えた「金融緩和を続ける必要がある」との一言で、1ドル=130円割れの円高が円安に反転したことも当然ながら認識していると思われます。

 従って、24日の所信聴取ではかなり慎重な姿勢で臨み、当たり障りのない発言に終始すると見込まれますが、議員から質問された時にどのような姿勢で応えるのかが注目されます。

日銀政策修正の思惑で円高進展に注意を!

 1月の海外投資家による日本国債の売越額は4兆1,190億円と過去最大となりました。日銀が昨年12月に長短金利操作(YCC)を修正し、長期金利の上限を0.5%に引き上げましたが、海外勢はさらなる上限金利の引き上げがあるとみて国債を売っているようです。2月に入っても国債売りは続いており、10年物国債利回りは日銀が上限とする0.5%に張り付いています。

 このように海外の投資家や投機筋はいずれ日銀の政策修正があると織り込んでいます。従って、植田氏が24日の所信聴取で、現時点では緩和が適切であり継続を支持すると述べても円安の反応は一時的になるかもしれません。

 それよりもYCCやマイナス金利の将来の方向について少しでも修正の匂いを市場に感じさせると、円高に敏感に動くことが予想されます。その円高を警戒して24日の前にポジション調整(ドル売り・円買い)が進む可能性もあるため注意が必要です。

 また、24日の所信聴取の前には日本の1月のCPIが発表されます。市場では昨年12月(前年同月比4.0%上昇)より上昇率は高くなると予想されていますが、市場予想通りに物価高が一段と進む結果となれば、より敏感な地合いになって所信聴取を迎えることになりそうです。

 前回のコラムで、2月14日に米国の1月CPIが公表されたことを受けて、1ドル=133円を上抜けたことから、為替相場は植田新体制がスタートするまで米国サイドの要因が強く働き、1ドル=130~135円のレンジで動きそうだとお伝えしました。

 しかし、その後発表された米国の1月のPPIや小売売上高、FRB高官のタカ派発言からドルは底堅く動き、レンジの上限である135円近辺で動いている状況となっています。しかし、このままドル高円安が進んで135~140円のレンジに移るとは考えていません。

 上述しましたように、24日の植田氏の所信聴取を皮切りに、3月9、10日の黒田東彦総裁最後の日銀金融政策決定会合、3月24日の日本の2月CPI公表、4月21日の日本の3月CPI公表、4月27、28日の植田新体制による初めての金融政策決定会合が予定されています。

 これらのイベント前後には日銀の政策修正への思惑や期待が高まり、円高に動くことが予想されるため、昨年のような一本調子の円安に進むのはかなり難しいだろうとみています。

 また、予想を上回った米国の1月の経済指標も季節調整の影響もあるとの見方もあるため、3月に発表される2月の経済指標を確認する必要があると考えています。3月21、22日のFOMC(米連邦公開市場委員会)では、2月の指標を踏まえて金融政策を決めるため、FRBのタカ派姿勢が弱まる可能性も一つの想定シナリオとして留意したいです。