先週は米国経済のソフトランディングへの期待が高まり、米長期金利上昇の中、米株も高値を更新し、ドル/円は1ドル=150円を目指す展開となりました。
米9月CPI(消費者物価指数)の粘着性(インフレ下げ止まり要因)のある結果やFRB(米連邦準備制度理事会)高官から緩やかな利下げあるいは利下げ見送りを示唆するコメントが相次いだこと、また、中国政府の景気刺激策による中国景気への底打ち期待などを背景に、14日には1ドル=149.98円近辺まで円安が進みました。
今週は150円の攻防が予想されますが、その後、FRBの大幅利下げ観測の後退や日本銀行の早期追加利上げ観測の後退を材料に、150円に乗せてどこまで円安に行くかが注目です。しかし、150円以上の円安は抑制的になるのではないかと考えられる材料もあります。
衆院選挙中は、円安がけん制されることが想定される
衆院選挙戦真っただ中では、物価高対策が争点の一つになるため、石破政権は輸入物価の上昇要因となる円安をけん制してくることが想定されます。その警戒心から円安の伸びが鈍くなることが予想されます。すでに金融当局からは円安けん制発言が発せられています。
三村淳財務官のけん制発言だけでなく、1ドル=149円台半ばの円安になった10日には神田真人前財務官も短期的な相場の急変動や不確実性に注意し続ける必要があるとの見解を示しました。英語で講演されたことや、大規模円買い介入を実施した前財務官の発言だけに海外市場も含め市場の警戒心は高まったようです。
FRBの大幅利下げは後退するも、利下げ期待は強くドル高も抑制される
10日、FOMC(米連邦公開市場委員会)で今年の投票権を持つアトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁は、11月のFOMCで「利下げを一度休止すべきかもしれない」と述べています。また、ウォラー理事も最近の経済指標を踏まえ、利下げにはより慎重なアプローチが必要であると主張しました。
CPIの結果やこれらの発言からFRBの11月利下げ見送り観測が浮上してきていますが、先行きの米政策金利の織り込み度を示す米国CME(シカゴ先物取引所)のフェドウオッチによると、11月の0.25%利下げ確率は94%、据え置き確率は6%と1週間前の15%から低下している状況となっています。
市場は冷静に判断し、CPIは予想を上回りましたが11月の0.25%の利下げを見送るのに十分なインフレ的な内容にはならないとの見通しが優勢になっているようです。
ハリケーンの影響もあり、11月1日発表の10月分雇用統計は悪化するのではないかとの見方もあり、11月6~7日のFOMCでの利下げを後押しする可能性もあります。また、この雇用統計は11月5日の米大統領選挙の直前に発表されるため、選挙に影響を与えるかもしれない点にも留意する必要があります。
FRBの大幅利下げはなくても利下げ期待は根強く、緩やかな利下げになっても、年内2回の利下げの見方は変わらないことから長期金利上昇も今の水準からは抑制的になり、ドル高も抑制的になるかもしれません。
おそらく日銀は金融正常化の方針を変えない
一方、日銀は金融正常化の方針を変えないと思われます。1ドル=150円近辺に近づいたことは、植田和男総裁が指摘した「時間的余裕」が少なくなることを意味するため、日銀が利上げ時期の判断を早めることにつながる可能性があります。
また、米雇用統計や米CPIの結果を受けて米国のソフトランディング期待が高まり、日銀の不安材料だった米国経済の不透明感が払拭(ふっしょく)されることによって、市場の追加利上げ期待は強まるかもしれません。
さらに、FRBの利下げペースが緩やかになれば、日銀はより追加利上げをやりやすい環境になるため、10 月の利上げはないとしても12月、1月の追加利上げ期待は強まることが予想されます。
ユーロ安・ポンド安は、ドル円の円安を抑制する
10月9日、ニュージーランド中央銀行は0.50%の利下げを決定しました。8月の0.25%の利下げに続き、2会合連続の利下げです。そして10月17日のECB(欧州中央銀行)理事会では0.25%の利下げ期待が高まっています。利下げはユーロ売り圧力となり、ユーロ/円も円高になり、ドル/円の円安を抑制することが予想されます。
ただ、市場ではほぼ織り込まれているため、あまり大きな変動は期待できないかもしれませんが、追加利下げについてどの程度踏み込むのかが注目です。追加利下げを示唆する場合は、引き続きユーロ売り圧力となることが予想されます。FRBの利下げペースが緩やかになれば、相対的にECBの利下げペースが勝り、ユーロ売りが優勢になることも予想されます。
ECBだけでなく、11月には英中央銀行の利下げ期待も高まっています。ベイリー英中銀総裁は、10月に入って、インフレが抑制された状態が続けば、金利引き下げについてより積極的になる可能性があると発言しています。
物価が目標の2%近辺に低下してきたことが背景にありますが、8月の利下げに続く利下げとなり、11月以降の連続利下げの可能性があります。ユーロ円と同じく、利下げによるポンド安はポンド円の円高につながり、ドル円の円安を抑制することが予想されます。
中東の地政学リスクはくすぶっている。円安要因になる原油価格の急騰に注意
イスラエルは先週10日に安全保障閣議を開催しており、米ワシントン・ポスト紙は政府関係者の話として核や石油関連施設は標的にしない意向を米国に伝達したと報じています。最悪の事態は避けられるため上昇していた原油は急低下しました。
しかし、中東の地政学リスクはくすぶっていることから、有事のドル買い、円買いの構図によって円売りが抑制的になることが予想されます。ただし、攻撃被害の度合いによってはイランの報復措置としてホルムズ海峡封鎖も想定されるため石油ショックには警戒する必要があります。一時的にせよ原油価格の急騰は日本の貿易赤字を拡大させ、円安要因になる可能性があるため注意が必要です。
FRBの大幅利下げ期待と日銀の追加利上げ期待で1ドル=140円台の円高となりましたが、9月の日米会合後の記者会見でFRBのパウエル議長は「今後の利下げペースは急がない」と発言し、植田総裁は「時間的な余裕がある」と追加利上げを急がない考えを示したことから、日米金利差縮小期待が後退し、円安となりました。
そして10月に入ってからの雇用や物価の結果が「急がない」状況を裏付けたため、一段の円安となりました。
このように「急がない」「時間的余裕がある」との説明によって政策変更の時間軸が伸びたため、過度に期待し過ぎた反動によって円安に戻しています。しかし、この時間軸が11月利下げ見送りによってさらに伸びるのであれば、もう一段の円安が進みそうですが、現状ではその期待は低いようです。
今後の景気と物価動向によってこの時間軸が伸びるのかどうかが注目ですが、根底にはFRBの追加利下げの方向と日銀の追加利上げの方向は変わらないことから円安進行は抑制的になることが予想されます。逆に時間軸を縮めるデータが出れば円高局面となることが予想されます。
また、FRBの利下げペースが緩やかになっても米国以外の先進国の利下げが相次ぐ可能性が高いため、ユーロ/円やポンド/円などのクロス円を通した円高によって、ドル/円の円安は抑制的な動きになることも予想されます。
米大統領選挙まで1カ月を切りました。10月27日には日本の衆院選投開票があり、10月30~31日に日銀金融会合、11月1日米10月雇用統計、11月5日米大統領選挙、11月6~7日FOMCと続きます。ここに中東の地政学リスクが加わり、不透明材料が多い環境では相場は動きづらくなりますが、何かあった時には大変動になる可能性があります。
そのような相場環境では円キャリー取引(円売り要因)も慎重になるため、このこともここからの円安を抑制することになりそうです。