9月のドル/円は、9月の日米金融会合に向かって思惑が交錯し、結局、金融会合後は1ドル=140~145円のレンジを抜け切れない相場展開となりました。
日米金融会合の結果は、FRB(米連邦準備制度理事会)は市場予想通り0.50%の利下げとなりましたが、FRBのパウエル議長は記者会見で「今後の利下げペースは急がない」と発言し、植田和男総裁は「政策判断には時間的な余裕がある」と述べ、追加利上げを急がない考えを示しました。
この発言で日米金利差縮小期待が後退し、縮小ペースが鈍くなるとの思惑からドルは買い戻されました。FOMC(米連邦公開市場委員会)前の米メディアの大幅利下げ観測記事によって1ドル=140円割れとなりましたが、両氏の発言によって140円は底固めをしたようです。
一方、1ドル=145円超のドル反発も鈍い状況が続いています。145円(*)近辺を社内レートとする日本の大手輸出企業のドル売りヘッジが頭を押さえていると思われることで、市場は年内のもう一度大幅利下げへの期待をくすぶっているようです。
*10月1日に公表された日本銀行短観9月調査によると、大企業・製造業の2024年度想定為替レートは144.96円、2024年度下期だと144.23円となります。この水準以上の円安は決算上、含み益になり、円高だと含み損になるため、この水準以上ではドル売りヘッジを行う可能性が高いことが推測されます(ドル安・円高要因)。
10月の相場は、日米金融政策を材料にこの1ドル=140~145円のレンジを抜け切れるかどうかが注目です。ただ、10月はFOMCが開催されないため、FRB高官の発言や米経済指標によって今後の利下げ幅や利下げ回数の思惑と期待が交錯し、相場は動くことが予想されます。
また、米経済の強弱は、植田総裁が指摘しているように日銀が追加利上げをしていく上での判断材料となります。しかし、次回10月30~31日の日銀会合では、まだ米景況を判断し切れない可能性もあります。
さらに、10月27日の衆議院総選挙の投開票や11月5日の米大統領選も控えているため、10月の日銀の追加利上げは見送りとなることが予想されます(10月3日には7月利上げに反対した野口旭審議委員の講演会があります。ハト派色がどう強まるかに注目です)。
従って、10月は日銀要因よりも米国経済指標などの要因によって相場は左右されることが予想されます。パウエル議長はインフレよりも雇用リスクを重要視しているため、特に米国の雇用指標に注目です。
4日の米9月雇用統計が最大の注目材料ですが、雇用統計の前には8月JOLTS(雇用動態調査)求人件数(1日)、9月ADP雇用統計(2日)、前週分新規失業保険申請件数(3日)が発表されます。
また、景気関連では9月ISM(米サプライマネジメント協会)製造業景況指数(1日)、9月ISM非製造業景況指数(3日)が発表されます。1日の9月ISM製造業景況指数は47.2と前月と同じでしたが予想をわずかに下回り、好不況の分かれ目である50を6カ月連続で下回りました。
また、ISMの構成項目の雇用指数が前月を下回りましたが、1日の8月JOLTS求人件数が804万件と前月も予想も上回ったことから、雇用関連指標は強弱まちまちの内容だったため、4日の米雇用統計の注目度がますます高まります。
9月の非農業部門雇用者数の予想は13~14万人の増加、失業率は4.2%の予想となっています。前回は14.2万人の増加と予想を下回り、過去2カ月分も8.6万人と大きく下方修正されましたが、失業率は4.2%に改善し、時間当たり賃金の伸びが前月の0.2%(前月比)から0.4%に加速するなど強弱混合の内容でした。
今回、雇用統計の内容がよかった場合でも11月の0.25%利下げ観測は維持されることが予想され、ドルは若干買われる程度で為替の動きは限定的となりそうです。逆に悪化した場合、11月の0.50%利下げ期待が高まり、ドル安が予想されます。市場の反応は悪い結果には敏感になることが予想されますので注意が必要です。
1ドル=140~145円のレンジを抜け切るためには、日米金融当局の次の一手が見極められる11月や12月の会合後と予想されます(FOMC11月6~7日、12月17~18日、日銀12月18~19日)。
パウエル議長は9月30日の発言で、「今年はさらに2回の利下げが行われ、合計0.50%となる」と大幅利下げ観測を否定する見解を示しました。この発言後、CME(シカゴ先物取引所)のフェドウオッチの11月0.50%利下げ確率は50%超から37%に低下し、FOMCと市場の見通しがようやく一致してきました。
一方、日銀の追加利上げ時期については12月18~19日の見方が増えてきています。つまり、10月は日銀利上げ見送り、11月はFRBが0.25%利下げ、12月はFRBが0.25%利下げ、日銀が0.25%利上げなどが市場のメインシナリオとして今後は動きそうです。
このシナリオに沿ってドル/円は徐々に円高に向かうことが予想されますが、FRBの大幅利下げ観測が後退し、0.25%利下げは織り込まれているシナリオでは大幅な円高は期待できないかもしれません。ただ、米雇用市場や米景気動向次第で大幅利下げが再浮上するというシナリオには常に留意しておく必要があります。
10月1日、米国東海岸とメキシコ湾岸の港湾労働者が一斉にストライキに入りました。港湾労働者のストライキは1977年以来47年ぶりで、長期化すれば物流の大幅停滞やインフレ、雇用状況に影響を与える可能性があります。
ボーイングもストライキを継続しており、ストライキやハリケーンの影響で、11月6~7日のFOMC前の11月1日に発表される10月米雇用統計が悪化する可能性もあるため、港湾ストライキの事態の進展に注目する必要があります。
今回、日本の政局が相場に大きな影響を与えました。自民党総裁選が相場に大きな影響を与えたため、衆院選の結果をみるまでは、期待と思惑によって相場は乱高下することが予想されるため注意する必要があります。
高市早苗候補の勝利期待から「株高、円安」の高市トレードとなりましたが、石破茂氏勝利の報道で一気にポジションの巻き戻しが起こり、株急落、円高となりました。高市トレードの反動以上に石破氏の政策が市場に嫌気されたと思われます。
金融政策については、総裁選の夜のテレビ番組で「日銀の独立性を尊重し、金融政策に関して日銀に要請はしない」「緩和的な金融政策の方針は変わらない」と述べましたが、円安に戻ったのは一瞬で金融所得課税や法人税引き上げなど緊縮財政政策が嫌気されていることが相場の重しになっているようです。
その後の発言でハト派的な姿勢に変わりつつありますが、この流れは10月27日の衆院選で石破政権が勝利し、政策が明確になるまでは続くことも予想されるため、就任演説や解散後の選挙演説には注目する必要があります。
また、中東地政学的リスクの高まりと米大統領選挙にも注目する必要があります。ハマスやヒズボラの指導者殺害によって中東情勢が混迷状態となっており、10月1日にはイランがイスラエルに向けて弾道ミサイルを発射したことから、戦火拡大の可能性が高まりました。
中東情勢は新たな局面に入った可能性があるため、今後の中東リスクをより一層警戒する必要があります。相場はミサイル発射によって米国債が買われ、金利低下によってドル安・円高になりました。
さらに、後1カ月強となった米大統領選挙(11月5日)を控えているため、米国は選挙一色となることが予想されます。選挙を意識した政策判断が中東の政治・軍事力学に影響を与えるかもしれないため注意する必要があります。
米大統領選挙は接戦のようですが、接戦になればなるほど市場の不透明感が高まり、相場にとってはマイナス材料になり、株安、ドル安になることも予想されます。緊迫する中東情勢もあり、投資マネーは動きづらくなりそうです。