米中はそれぞれの言い分を主張し合い、協議は平行線で終了

 日本や米国を含めた各国メディアは、「米中外交トップが会談」という類の見出しで、王・ブリンケン会談を大々的に報じました。それだけ注目度が高かったということでしょう。

 一方、米中両政府のこの会談を巡る対外発表の仕方にはギャップが見られました。こういうギャップの背後には、それぞれの思惑やスタンスの違いが如実に体現され、その後の動向にも不可避的に影響を与えるため重要であり、きちんと押さえておく必要があります。

 この会談について、米国務省は「ブリンケンと王毅が会談した」、一方の中国外務省は「米国側の要求に応じる形で、王毅とブリンケンが非公式に接触」と発表しました。両者の違いは一目瞭然で、米国側からすれば、この会談は両国外交トップ間の「公式な会談」、ただ中国側からすれば、この会談は「非公式な接触」という位置づけです。中国側は、あくまでも米国側が会いたいというから会ってやったという体裁にしたかったということです。

 逆に言えば、両者が公式な会談を行うには条件が整っていない、機が熟していない、そしてその原因をつくったのは米国であり、責任は米国にあるのだから、米国が政策を改めるまでは、公式会談などできない、という姿勢を前面に押し出したということです。中国としても、この会談を実現したくなかったわけではありません。ただ、自国のメンツの問題も考慮しつつ、妥協点を探る中で、このような建付けに落ち着いたということです。

 会談の内容を見ていきましょう。

 足元の最大の焦点である気球問題に関して、ブリンケン氏が「中国偵察気球の米領空での高高度飛行は、米国の主権、国際法に対する受け入れられない侵害」と表明すれば、王氏も負けじと、「米国側の対応は典型的な武力濫用であり、国際慣例と民用航空公約に著しく違反している。中国側は強烈な不満と厳正な抗議をする」と反論しました。

 両者は、「米中どちらが真の悪者か」に関しても攻防を繰り広げました。ブリンケン氏が「中国による高高度偵察気球プログラムは、5大陸、40カ国以上に侵入し、世界中に広がっている」と指摘すれば、王氏も「米国こそが世界最大の監視・偵察国家であり、高高度の気球は過去に幾度となく違法に中国の領空を通過している。米国に中国の顔に泥を塗る資格はない」と反論。両者の主張は平行線をたどり、今回の会談で気球問題に「決着」はつかなかったと言えます。

 王氏は、ミュンヘン安全保障会議で基調講演を発表しましたが、その後会場からの質問に答える形で(ブリンケン氏ではなく、会議参加者に対して)、気球問題に関する中国側の立場をかなり赤裸々に、強い言葉で主張しています。参考になるので以下引用します。

「これは米国による政治的な茶番劇である。中国側はすでに明晰に米国側に伝えている。あれは民間の無人飛行船であり、とてつもなく強い偏西風の影響を受け、自らの限られた制御力も相まって、予定していた軌道を外れ、米国の上空に入ってしまったのだ。我々は、米国側が理性的に、冷静に、プロフェッショナルな態度で中国側と連携して対応してほしいと要求したが、遺憾なことに、米国側は基本的事実を無視し、乱暴にも戦闘機を出動させ、いかなる脅威ももたらさない飛行船をミサイルで撃ち落としたのだ。このようなやり方は常軌を逸しており、ヒステリックとさえ言える…地球の上空では毎日多くの気球が飛行しているが、米国はそれらをすべて撃ち落とすのか?このようなやり方は米国の強さを証明するのではない。その逆である。我々としては、米国が国内政治における需要から、対外関係においてこのような馬鹿げたことを再びしないように忠告したい」

 茶番劇、ヒステリック、全てを撃ち落とす…相当踏み込んだ形で、ミュンヘン安全保障会議という、1962年から毎年開催されている、欧米における安全保障会議の中で最も権威ある国際会議の場で、各国首脳や閣僚が聞いている前で、米国に対するネガティブキャンペーンを行いました。

 相手が米国だろうが誰だろうが、中国の国益、主権、尊厳を守るためなら容赦しない、そんな中国大国化、強国化の一面を今一度垣間見た思いがしました。