「気球問題」は何処へ向かうのか?

 気球問題と米中関係、という観点から、私が現時点で考えるところを3点書き留めておきます。

1.米中政府共に、気球問題で両国関係を後退させることは避けたいと思っている

 そもそも、米国、中国どちらかが、気球問題を、両国間のハイレベル対話を止めなければならないほど問題視しているような状況であれば、ミュンヘンでの王・ブリンケン会談は実現し得ませんでした。その意味で、2月上旬に予定されていたブリンケン訪中から間もなく、第三の地であれこの会談が実施されたことはグッドニュースです。

2.それでも米中間の攻防と不信は続く。根本的な問題は何も解決されていない

 根本的な問題とは、米中関係とは戦略レベルで互いに不信を抱き、競争し合う関係であるという点です。王氏は、基調講演後の質疑応答で、「このような偶発的事件が中米関係で大きな騒動を引き起こした深い次元での原因は、米国の中国に対する誤った認識と戦略的誤判に帰結する」、「中国を最も深刻な地政学的挑戦と戦略的競争相手とする誤った対中観主導の下、あらゆる手段を使って中国を封じ込めようとしている」という従来の立場を表明しています。

 中国は米国が自国を封じ込めようとしている、米国は中国が国際秩序・ルールを力で変更しようとしていると捉えている。互いに信用していないということであり、人権問題、覇権争い、先端技術、台湾問題を含め、米中攻防はまだまだ続くでしょう。

3.両国が世界各国で行っている偵察活動が、国際関係の新たな火種になり得る

 今後、米国の偵察気球が中国の領空に侵入した、中国の気球が台湾海峡を通過して日本列島を飛行した、という類の動向がこれまで以上に頻繁かつ生々しく報じられ、そのたびに米中関係、台湾海峡、日中関係などは緊張し、地域情勢は不安定化するでしょう。某国の軍隊が某国の気球を撃ち落とす、という事態もこれまで以上に常態化する可能性も十分にあります。

 「サーベイランス」という監視を意味する言葉がありますが、最先端の技術を使ったサーベイランス行為が国や地域を越えてはびこれば、国だけでなく、企業や個人の情報が乗っ取られるリスクも高まります。

 米中間の気球問題は、日本で暮らす我々にとっても決して無関係ではないということです。