中国外交部が公開した米国の世界各地における「監視・偵察活動」

 2月13、14日の両日開かれた定例記者会見において、前述の汪氏は、気球問題だけでなく、近年、米国が世界各地で行っているとされる監視・偵察活動について、詳細な例を挙げながら批判を繰り広げました。いくつかの発言例を見てみましょう。

「事実、米国こそが世界最大の監視偵察国家であり、世界最大規模のスパイネットワークを有している。米国の国家安全保障局が盗聴の対象とする国にはドイツ、フランス、ノルウェー、オランダといった欧州国家における政治家のショートメールや通話内容が含まれる。米国は100カ国近くの外国大使館に盗聴器を取り付けている」

「米国は頻繁に艦船や飛行機を派遣して、中国に接近する形で偵察活動を行っている。その数は昨年1年間で延べ657回。今年1月、南シナ海付近だけで延べ64回に上っている」

「デンマークメディアによると、米国家安全保障局は過去にデンマークの情報機関との協力の機会を利用する形で、ドイツ、スイス、ノルウェー、フランスなどの政治家に盗聴を行っていた。そこにはドイツのメルケル元首相も含まれる」

「北京奇安盤古実験室科学有限公司(Beijing Qi an Pangu Laboratory Technology Co., Ltd)の報告によれば、米国国家安全保障局のハッカー集団であるイクエーション(方程式)グループは最高級の裏口ルートを使って、中国、ロシア、英国、ドイツ、オランダなど45の国や地域に対して十数年にわたるハッキングを展開してきている。そこには、通信、科学研究、経済、軍事といった分野が含まれる」

「米POLITICO誌によれば、米軍は1997年以降数十億ドルを投じて、高い高度を飛行する偵察飛行船を研究開発してきている。2022年、米軍は偵察設備を備えた高高度を飛行する気球を軍事転用したが、それは中国とロシアを追跡する極超音速戦略巡航ミサイルとして使用が可能である」

 これらの情報の信ぴょう性は検証の余地がありますし、中国の政府ですから、自国に有利になる、米国をおとしめられる情報を恣意(しい)的に抽出しているのは間違いありません。ただ、新型コロナウイルスの発生源問題、人権問題、産業・貿易政策などを巡る米中攻防と同様に、中国は、「自分たちにも問題はあるが、米国の問題はずっと深刻だ」というナラティブを国内外の世論に対して働きかけることで(プロパガンダ工作)、対米外交を有利に進めようとしているのが現状だと言えます。