投資家は何に注目するべきか

 予定では、副総裁2名の任期が3月に切れて、総裁の任期が4月に切れるのだが、総裁を前提とせずに副総裁を選ぶことは不自然なので、2月ないし、早ければ1月中にも、正副総裁3名が指名されることになるだろう。

 投資家は、先ずはその3名の人選から、日銀の向こう5年に亘る政策を読み解こうとするはずだ。

 現時点では、おそらく岸田首相は、現在の黒田総裁のようなレベルで金融緩和政策に積極的な人物を総裁には選ばずに、日銀の近い将来の政策転換を予想させる人事を行いそうだ。

 但し、この際に、政策変更へのスピードを予測する上で、副総裁2名のうちの一方に、いわゆるリフレ派(金融緩和積極論者)と目されるような人物を選ぶか否かに注目すべきだろう。リフレ派の人選があれば、それ自体がサプライズと受け止められるだろうから、現在の金融緩和政策からの転換スピードが大方が予想しているものよりも遅くなることを予想させるメッセージになると思われる。

 副総裁のうち1名は、日銀あるいは財務省の出身者ではない学者が選ばれることになると予想するが、この人物の過去10数年程度の書き物や発言などの情報発信を分析することによって、政権が意図する金融政策転換のスピードを推し量ることが出来るのではないかと思われる。人事が発表されると誰かがやるだろうが、政権の意図と、日銀の新体制が目指す政策像は、この分析から大体分かるはずだ。

 また、新メンバーが選ばれた際のコメントは、株価が急落して「○○ショック」と言われるような事態を避けるために、現在の政策の継続を実際に意図している以上に強調しつつ、慎重になされるだろう。指名を受けてのコメントはかなりつまらないものになるはずだ。

 しかし、人間はなかなか100%完璧な嘘や演技が出来るものではない。将来の政策転換に積極的な意見を持っている人物の場合、例えば、「金融緩和政策を転換するとしたら、その条件は何か?」といった質問を受けた際に、解釈のしようによっては比較的早く満たされてもおかしくない条件を答える可能性が大きい。

 新総裁が実際に就任してからのコメントにも同様の注目は必要だが、早い場合は指名された時のコメントから政策転換への動きとタイミングを察知することが出来る可能性がある。株式や外国為替のトレーディングに熱心な向きは、想像力を働かせながら大いに注目するといい。

 イールド・カーブ・コントロールの範囲の緩和(±0.25%→±0.5%)の発表では、為替レートはざっと20円円高に振れた(約150円→約130円)。金融緩和を大看板としたアベノミクスの下で株価が大きく上昇したことを思うと、日銀の金融政策の転換は株価に対する影響も大きいはずだ。その時期、規模、スピードなどを予測することは、特に短期的なトレードのゲームに参加している投資家にとっては大いに重要なファクターであるはずだ。

 また、政府と日銀が交わす政策の合意事項である、いわゆる「アコード」も文章の見直しの可能性が取り沙汰されている。市場への影響の可能性を考えると、新総裁選任の際に見直しを発表するのではなく、時間差を設けて様子を見る方が政治家・官僚・日銀の何れにとっても賢いと思われるが、これを急ぐようであれば、政権は金融政策の見直しを急いでいると見ていいだろうから、この点にも注目したい。

 尚、金融政策と財政政策は目指すところが一致して両者に一貫性があることが望ましいので、アコードの締結によって両者を関連付けることは原則論として良いことだ。但し、現在のアコードは、専ら日銀の行動を政府の目的と整合させるために機能しているように思われるのだが、前述のように、現在の日本の状況では財政政策をマクロ経済の政策手段として適切にコントロールすることが重要だ。新総裁の体制が発足することでしばらく日銀に注目が集まるかも知れないが、同様或いはそれ以上に、財政政策と財務省を適切にコントロールすることが重要だ。

 国民にとっても、投資家にとっても、「財政には大きな問題がある」という認識を持つことが大事だし、日銀の新総裁には専門家としての矜持をもって財務省に対しても堂々と意見を言うことを期待したい。