懸念される三つの影響:経済、政治、外交

 中国政府は、それでも医療専門家の見解などを活用しつつ示してきたように、3月くらいにかけて新型コロナの新規感染者数はピークに向かい、上半期中には社会は正常化する、言い換えれば、今起こっている現象は想定内であるとの立場を堅持しているようです。

 ただ、私は三つの視点から先行きを懸念しています。

 一つ目が、経済への影響です。「ゼロコロナ」策の大幅緩和は、少なくとも一時的に景気の下振れ圧力となっています。中国国家統計局が12月31日に発表したPMI(購買担当者指数)は47で、11月の48からさらに悪化しました。建設業とサービス業を対象とする非製造業PMIは41.6(11月は46.7)と低迷、いずれの指数も、武漢からコロナが感染拡大した2020年2月以来の低水準となっています。

 コロナ禍はいずれ終わると仮定して、これらの数字もどこかのタイミングで上向くのでしょうし、GDP(国内総生産)実質成長率が目標であった5.5%に達せず、3%前後に終わる見込みの昨年に比べれば、景気全体は回復する可能性が十分にありますが、特に上半期は依然として予断を許さない状況が続くでしょう。

 二つ目が、政治への影響です。本連載でも扱いましたが、習政権は、11月下旬、新疆ウイグル自治区ウルムチ市で発生した火災事件、およびそれをきっかけに広がった抗議運動を受けて、「ゼロコロナ」策を大幅に緩和した経緯があります。要するに、コロナ禍は政治の安定と密接に結びついているということです。例えば、仮に前述したコロナ感染による死者数が持続的に増加し、「中国ではコロナ感染で100万人が死亡」といった見立てが現実化すれば、国民は再び同政権に対し、「話が違うじゃないか」という観点から抗議の声を上げる可能性があります。コロナと政治、という意味でも2023年は注目の1年になります。

 三つ目が、外交への影響です。中国政府の水際対策緩和を受けて、日本を含め、各国は中国からの入国者に対する水際対策強化を発表しています。日本政府は、2023年1月8日から、中国からの渡航者に対しPCR検査を義務化、直行便での入国者には72時間以内の陰性証明提出も求めます。

 1月3日、中国外交部の毛寧(マオ・ニン)報道官は定例記者会見にて、「コロナ抑制措置を弄ぶことで政治的目的を達成しようというやり方に断固反対し、異なる状況に対し、対等の原則に基づいて然るべき措置を取る」とコメント。日本を名指しにしたわけではありませんが、日本政府の措置が同報道官によるけん制の標的に含まれているのは疑いなく、今後、状況次第では、中国政府が日本から中国への入国者(どれだけの日本人が、感染が急拡大するさなかにある中国に向かうかは別として)に対し、水際対策を強化する可能性も十分あるでしょう。

 新型コロナウイルスの発生源問題を巡って、中国と米国、豪州などの外交関係が悪化したように、中国からの渡航者に対する水際対策強化を、「中国への差別」、「民族としての屈辱」と捉える中国と、日本を含めた諸外国との間で、外交問題に発展するリスクは念頭に置いておくべきです。